AM | ナノ



俺の名はヤマダ
族長直属護衛軍密動部隊長
軍事機密を数多く握る国一番の情報通、だが




「カワダ」




俺の名はカワダ…でもある



「ご注文かい?」
「水、おかわり」
「…かしこまりぃ」


暑苦しく顔を覆い隠すフード付きの軍服を脱ぎ捨て、鼻先まで掛かる前髪を結い上げれば、喫茶フェードアウトの店主にもなる、訳だが
そんな変装のお陰か店の常連で騎士団同期のエレにすら、未だヤマダとは見破られない



「イクサくん…入店から一時間水しか飲んでないけど…栄養足りてるか?」
「ん?ああ、お前んとこの水は旨いぞ」
「いやいや水にこだわりある蕎麦屋じゃねぇよ?」


眩しい髪色の男は人好きのする笑顔を浮かべた
軍内で見かける姿よりも随分と朗らかに見える

こうして緊張解れた客が油断して愚痴と一緒に情報を溢していくのだが、未だにガードが堅いのがこの男、イクサ


「イクサくんよぉ、お前いつもウチに何しに来てんの」
「そう邪険にすんなって、こっちは客だろ」
「いつも緊張した空気の奴は歓迎したくないね」


知るやつは、エレとイクサを似ていると口にする
だが俺はクレの方にこそ似ていると感じる

掴めない、隙を見せない

そして誰も信用していないと語る目


「はぁ」
「なんだ、カワダ…溜め息なんて珍しいな」
「俺も人なのさ、陰りの死神さまと違って」
「悩みがあんなら言ってみろよ」

冗談ではない、と平生なら思う
こちらばかり情報を明け渡すなんて馬鹿な真似は出来ない

だがイクサはすっかりカウンターに頬杖ついて聞き入る体勢になったものだから
妙な空気に当てられて口が滑る



「俺…金が好きなんだけどさぁ」
「いつもぼったくるしな」
「……最近それも違う気がしてね」
「へぇ」
「なんでかなって、センチメンタルなわけだよ」
「なるほど、な」


イクサはそれを聞いただけで満足したように水を飲み干し席を立った

「おい何だイクサくん、慰めてくれるとかじゃないんかよ」
「いーや、心配するほどの悩みでもねぇみたいだし」
「ん?」
「護衛軍総長殿に頼まれてな、ヤマダが変だっつーから様子を見てくれって」

「…俺、カワダだけど」


何ともしてやられた感が否めずにそんな負け惜しみだけ溢すことが精一杯だった


「じゃ、またな」
「待て待てお代置いていきなよ」
「水しか飲んでねぇけど」
「賑やかなお客がイクサくんにツケていったんだよ」







[*前] | [次#]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -