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「爆弾イルカ?威力満点ヨ、サッキ見タダロ?」

「空中戦で爆弾が使えるか」

「矢ニモ合体デキルネ」

「……」


勇者の影は雑貨屋のカウンター前で顎に手を添えうんうんと考えていた
爆弾が先の戦いで必要か否かを真面目に吟味している

弓矢を扱うのは主人公だけだが、果たして爆弾と光の矢が合体などしたらどんな恐ろしい兵器になるか
主人公も上達したとはいえ、そんなものを安心して任せられるほどの腕ではない


「やはり爆弾は必要ない」

「絶対買ウベキダ!在庫余ッテルンダヨ!」

「そもそも、爆弾袋が無い」

「ソンナノ!ソコノ龍ノ胃に詰メトケバイイネ!」


爆弾袋には炎に強い魔獣の胃袋が利用されている
それはそうだが、勇者の影は顔をひきつらせて話を振られた龍の方へ振り返った

店の出入口付近でところ狭しと縮こまっているヴァルバジアは、やはり怒りに鼻息を荒くしていた
だが未だ本調子では無いらしく、激しく暴れたりなどはしなかった

店主セバスのピーチク煩い怒声に耳を塞ぎながら、勇者の影は棚の別の方へ指を指した


「赤い薬を一つ貰う」

「空キビンアルノカ?」

「……無い」

「空キビン代モモラウネ」




ここぞとばかりに増額され、結局勇者の影の財布はすっからかんになった
主人公との旅の最中、いつの間にか溜め込んでいたルピー達だったがこんなに一瞬で消えるものか、とその儚さに少々感慨して、店を出たところ、夜風の強いものが彼を襲った


「っ、…あいつら、飛ばされていなければいいが」

「おぬしじゃあるまいに、わざわざこの風の中飛ばされに歩く訳がなかろう」

「……それもそうか」


わざわざヴァルバジアの言葉に反論することもない
勇者の影が心配をせずとも、誰もこんな空から落ちたくは無いのだから各々、最低限身を守ることだろう
ふぅ、と溜め息を風に加えて、勇者の影は帽子を被り直し、夜の天空都市を歩き始めた
その斜め上をゆるりと飛び、ヴァルバジアがついていく
勝手にまた何処かへ散歩に飛んでいってもいいものを、妙に抜けたところのある勇者の影を案じてか、彼にわざわざ付き添う姿は、面倒見の良さを物語っているよう
だがそれは少なからず勇者の影にも言えることらしい

キュポン、と音が弾んだかと思えば、勇者の影がヴァルバジアに向け、先程買ったばかりのビンを差し出していたのだ



「なんじゃ」

「赤い薬だ、体力が回復する…らしい」

「要らぬわ」

「貴様が飛べなくては困る」


尚もずいっ、と腕を伸ばす勇者の影の、しかめっ面に近い真顔と見合いヴァルバジアは目を細めた


「明日、俺たちは勇者を追って天空より更に上に行く、その為にナルドブレアを倒す、貴様が使い物にならなくては話にならないだろう」

「ふむ…そうか、これは中々…」

「?…何だ」

「ぬしも中々に良い男よのう」

「………いいから飲め」

「初い奴じゃ」

「貴様よりは長く生きているぞ」

「やはり、うつけか…まぁ良い」


ヴァルバジアは遺跡の縁に足を置き、そこに留まると、勇者の影の持つ薬を、ビンごと口に入れ、ボリボリゴックンと食べてしまった


「貴様っ!500ルピーもしたんだぞ、そのビンは」

「わしに人間の薬なぞ効かぬ、が硝子ならば腹のたしになろうというもの…しかし果たして勇者を追うに至るかどうか」

「どういう意味だ」

「影の民の、クレと言うたか?何やらもめているのであろう?」

「あいつは…」


勇者の影は遠く果てに見える星空と、月明かりに蒼暗く照らされる雲の海の、境界のあたりを眺めた
到底自分には理解し得ない痛みが、あの男にはあるのだという
今彼の紅い瞳に映る、あの空と雲の交わる場所を探しに行くような、それくらい想像に難い感情だ、と勇者の影は考えていた
見兼ねてヴァルバジアは、思うところを聞かせてやる


「おぬしは…先祖代々のなんたるかを知らんのじゃろう」

「当然だ、ただの魔物だったからな」

「命の限り、その時を懸命に生きてきた者達がいる、そのたぎる想いがある、その血を、自身にまで繋げてくれた者達がいる、それだけで心奮えぬことなどあろうか」

「…やはり、俺にはよく解らない」












「勇者の影」





ざ、と足音が前方からした
見れば彼らの進行方向に、通路を塞ぐかのように、噂のクレが立っていた





「何か用か」



わざわざ彼を呼び止めてくるのだから、通りがかったのではないのだろう
勇者の影が簡潔に問うが、クレは答えを返さずに、足音もなく勇者の影の方へ歩み寄って行く





「何だ」



「貴方の影を貸していただきたいのです」


「意味が解らない」





「自分は…」




クレは一度瞼を伏せ、息を吐き出す
次を言葉にするのに、大層気力が要るらしいと、いくら勇者の影でも分かった

余程重要な事を聞かされるかと身構えたがそれは予想以上だった








「国へ帰らせていただきます」



「何、だと…!?」








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