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空に浮いて尚、何処か威風を覚えさせる都市の遺跡
目についた遺跡の床に、取りあえずは降り立とうとヴァルバジアは蛇行し近付く

先ず真っ先に勇者の影が、龍の爪から手を離して着地
続いてムジュラがヒラリと舞い降り、石畳から少しだけ浮いた宙に足を置く

それからヴァルバジアが、ゆっくりと下降し、円形の広場のようにして在る遺跡の形に沿うよう、長い体で円を描いて着き
首を下げて気配る赤龍から漸く主人公が降りて
最後にクレが彼女の影から立体になり出現

誰一人欠けること無く辿り着いた



「ここが天空都市ー!すっごーい!」


地に足を着け、その確かな感触に安堵し、主人公は両手を広げてその場の空気と、光景を実感した






「…天空、か」


勇者の影もまた、主人公とは違う感慨に目を細めていた
風に乗り、鼻を掠める香りは、確かに彼が求め食していた『記憶』のそれ
だが食欲のようなものがそそられる気はしない、むしろ、何か、腹がムカムカするかのような、気持ち悪さがある

さておき、それは勇者リンクが、かつてこの地を訪れた何よりの事実だったが
それに紛れ、最近、それこそ、たった数ヶ月程前の、彼に言わせれば『新鮮』な記憶の匂いも、勇者の影の鼻は感じ取っていた

主人公の仮説、リンクは空に居るということの、僅かなりの裏付けの気配を、知らせるべきか否か、迷った挙句、紅い目は伏せられ黙することに


天空を堪能する主人公を邪魔することは出来ないと律儀に考えるクレは、何やら瞑想に耽る勇者の影を一睨みして、手持ちぶさたをムジュラに頼るため近付く
ムジュラは遺跡の端にいて、先程は浮いていた足をつけ、ぺたぺたと、石畳を、その場で足踏みをして確かめていた


「如何いたしましたか」

「…オマエ、何もカンジナイ?」

「…特には…風が強く、眩しいくらいです」

「ボクだけかナァ、ナンカ此処…スキ、だけどキライ」


胸の奥を宥める奇妙な感覚を抱きながら、ムジュラは首を傾げる
彼の言わんとすることを理解出来ず、クレも同じ方向に首を傾げてみた
ハテナを高い空の風に浮かべ流している男二人の抜けた図に、ヴァルバジアの首がぬぅ、と伸びて割って入った


「体が覚えているというものがあろう、懐古は受け継がれる」

「かラだ?」

「わしとて叔父上らの遺志につられ体が震えることがあるのじゃ、翼竜の礼儀の無さには我が一族の遺伝子が憎悪を覚えさせる…全くあの不細工な羽音ときたら思い出すだけで!」

「……ということは…ムジュラは、天空に来たことがあると言うことですか」

「キヒャっ、あるワケ無いじゃんお前バカ」

「…」

「そんなことより小童、ロース岩は何処ぞ」


両者の話を総じて出したクレの答えは嘲笑により切られ、更に呆気なく話題は移ろっていく
ヴァルバジアとムジュラの双方にもてあそばれた感があり、クレは素直に面白くない、とこめかみをヒクつかせていたが、それ以外を表情に出さずにいるのは流石、だろうか

小童、と呼ばれたムジュラはン?と目を丸くする

ヴァルバジアはいつになく空を飛び、彼らを運んだので、少なからず疲労を感じているのか苛立っているのかしているらしかった

カカリコ村からハイラル城へゼルダを送り届けに
続けてスノーピークへ行きムジュラを迎えに
そしてそこから雲の上の天空都市へ上昇
それも人間を二人以上も乗せてだ
かなりの仕事量であると言える

ヴァルバジアがロース岩とやらを好物としているとの噂は真であったのか
その仕事の見返りを食事で催促されている、が
ムジュラが持つものと言えば、腰布に引っ掻けている仮面一枚
結局人の話を聞かない獣人との約束は反古にされ、ロース岩は手に入らないまま、天空へ来てしまったのだ



「ェ…あぁー、ナイけど」

「…ふむ、時に、ぬしは良き香りがするの」

「えヘェ?ナンだよ、…ボクの身体はボクので、ムジュラは食べられるシュミナイんだってば」

「宜しければ、自分が調理いたしましょうか」

「絶対やだ!!!」


主人公の声に変調させてムジュラが拒絶すると、目に見えてクレは凹んでその場にガクッと膝を着いてしまった
彼の料理の腕はトアル村で一度見たきりだが、十分に理解できたことは、料理を食べる側だろうが、食材側だろうが、関わったもの全て、悲惨、この一言に尽きる

ムジュラは自分の喉に指を当て、小さい悪戯のような魔術を解いて、そんなクレの様子に舌を出していた

最近彼に宿った、青い炎の魔力は、今までの力と対極に清廉で扱いに慣れず、そして膨大とも言えないが、それでもムジュラは満足そうだった





「ぎゃー!!!」

色気無い悲鳴がしたのはそんな時で
気づいて三者、そちらに目を向ければ正面から突風が全身にのし掛かるように襲ってきた


「アッ」

「主人公様!!」


見れば突風に煽られ、飛ばされそうになる主人公を、向こうの遺跡の縁に掴まる勇者の影が支えている、風に耐えている二人の姿が目についたが
何処からか無数の木の葉や土埃、果ては何か黄色い鳥のようなもの達が風に飛ばされ飛んできて、ムジュラもクレもとても目を開けていられない



「勇者の影、どーにか、してよ!飛ばされる!」

「くっ…主人公、貴様、前より太ったんじゃないか」

「そーゆうお約束要らないからぁぁあああ!!!!!重いのは風のせ…―

「あ」

「っわぁあぁあああああ―!!!」


主人公と勇者の影の手が離れてしまったのは
風に飛ばされてきた黄色い物体、天空人が勇者の影の顔に正面衝突した弾みだった

悲鳴しながら飛ばされ、床地からもはみ出した完全な空中に主人公が放り出される前に、クレが飛び出し、主人公の両肩をしっかり抱いてキャッチした


「な、ナイスクレ!!流石クレ!!」


「申し訳ありません」

「――え?」

「申し訳、ありませ」


二人が着地したのも束の間、何の支えもない二人は止まない突風により再びひゅーんと飛ばされる


「ええぇえええええええー!!!!!!」

「自分だけでは踏ん張りが利かず…申し訳ありません」

「凹んでる暇あったらどうにかしなさい!」


飛ばされながら影を背負い込むという器用な真似をする男に、主人公も器用に突っ込んだ

そこへ赤い帯が何処からか伸びてきて主人公の腰に巻き付く


「わっ」

「暴れるでないぞ」


それはヴァルバジアの長い尾だった
たちまち二人の体は絡め取られ、赤龍の腹の辺りまで引き寄せられる
そこにムジュラも避難していて、更に、結局風に負けてしまった勇者の影も、ゴロン族の如く空気の流れに転がされヴァルバジアの腹にぶつかり塞き止められて助かっていた


なんとまあ頼りになる龍だ、と主人公が感動しているのも他所に
ヴァルバジアはつい先程、襲ってきた翼竜にしたように強烈な雄叫びを風上へ轟かせた
間近にそれを聞き、皆各々の長耳を抑えて耐える
そうしている間に、風は止んでいった



「びっくりねぇ〜ほんと!!」


甲高く耳につく、聞きなれない声を、更に間近に聞いて、皆恐る恐る顔を見合わせる

風に吹かれ飛ばされ、半ば折り重なるように倒れていた四人の、その山の中から、よじよじ、と這い出てきた生物に、各々目を見張る


「ナルドブレアがまた悪さしだすなんてねぇ〜、いけない子だわぁ、おばちゃん、飛ばされちゃうかと思った」

「…」

「あらぁー!もしかしてアナタ達下から来たの?おばちゃんびっくりよ」


人面鳥の如き容貌の、コッコ程度の小さい生物が流暢におばちゃん口調で喋るというのは些か恐怖を覚えさせるものがる

かつてハイラル各地で、そのおばちゃんと息子が、勇者の冒険の手助けをしていたことを知る勇者の影を除き
主人公とクレとムジュラはおばちゃんの小豆のような目と見合う度にドギマギして目を泳がせてしまいそうになっている



「主人公、こいつは天空人だ」

「…何て言うか、夢がない」

「畏れながら、自分も同意見です」

「夢がナイのはヨクナイよね、ケヒ、ヒヒヒ」



いったい天空人というものにどんな夢を抱いていたのかについては、またの機会にじっくり語り合うことに主人公は決め
旅の基本、情報収集の聞き込みへとステップを進める






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