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「見ろよエレクレ」


「おい一纏めにすんなボケ山」


同期のヤマダが俺と、クレの肩を叩いて、ニヤニヤと笑い、見るように促す
その先には目につく色の髪をした男がいた

自然に、眉間が狭くなる





「反逆者の血族、イクサだ」



クックッと声を漏らす背後のコイツにも、呆れと不快さを覚えた
俺がそう思うときは、大概にしてクレも同じように感じている

隣を盗み見れば、くそ不味い食堂の飯を、いつの間にか空にして、読書なんてしてやがった




「何であの野郎は生きてんだよ」


「知りたいか?50ルピー」


「高ぇ!!」



思わず大きな声が出て、昼時に集まっていた軍の奴等から注目を浴びた
いたたまれなくなり、飯を掻き込もうとして見れば、最初の量より飯が倍になっている器に、盛大に噴き出してしまった
犯人は隣の、俺の半身



「クレ、テメェ、また飯食わねぇつもりかよ!!」


「……何か問題でも」


「好き嫌いすんな!」


「仲良しだねぇ、エレクレ、で、どうだい50ルピー、買いだと思うけど」



しつこく話に割り込んでくるヤマダの顔面に、副菜の山盛りになった皿を押し付けて黙らせた

ムカつくことにヤマダの情報収集力は半端じゃない、加えて信憑性も高い
密動部隊志望というだけはある

だが今月の俺の財布が何より厳しい





「……クレ」


俺は恐る恐るクレに声を掛ける
俺が言いたいことは、それだけで伝わっていると俺には分かる

クレは何も言わず懐を探り、内ポケットから紫水晶を取り出して投げ寄越した




「サンキュ!おらヤマダ!話せ」


「姫君が免罪した」


「はぁ!?」



野菜を払い落としながらシレッとヤマダは言い放ち
また俺は大声を出して、今度はマジで食堂中の視線が集まった
クレが長テーブルの下で俺の脛を蹴りやがった、痛ぇ

簡潔な答えにとんでもない内容が含まれているのだから当然だ
奴は、イクサは、ザントの起こした反乱に加担していた
首謀者の次に重い罰を受けて然るべき立ち位置だった筈の男が
何故今も平然とこんな所に現れて、ランチを頼んでやがる、しかも二食分、しかも一番高いソルティア丼定食だと!?



「あの野郎ッ、俺がぶっ殺してやる…!!」



ガタン、と椅子を粗雑にして立ち上がると、半ばの所でクレの手が伸びて背中を掴み、俺を座り直させた
苛立って睨めば、クレの黄色の目は俺と同じか、それ以上に憎しみを込めて奴の橙色の髪を睨んでいた



「何で止めんだ!」


「……ヤマダ、反逆者の血族とは、どう言うことだ」


クレは俺の言葉を無視して、素の声でヤマダに問いかける
ヤマダは前髪で隠れた目の分も、目一杯口隅を上げて笑うと、テーブルを飛び越えて向かいの席に座り、嫌らしく手のひらを見せる
強引だが商売が上手くて余計苛立つんだこのボケ山

クレはまたルピーを投げ渡した
ムカつく橙色のそれがヤマダの手に渡る



「光の女神の話、知っているだろ?」


「ソルの由来の言い伝えだろ、作り話じゃねぇのか」


「ソルを独占しようとした暗赤髪の男の子孫が、現代にも生きているとかいないとか…ってな」


「……嘘だったら胸くそ悪ぃぞ、ヤマダ」


「このヤマダに嘘はナシ、だ……じゃーな双子、毎度あり」



ヤマダは手を降って、椅子に寄りかかっただらけた姿勢のまま、体を影に溶かしてどっかに消えやがった
150ルピーも払ってちんけな情報しか貰えなかった、まぁ払ったのはクレだけど、今度会ったら一発殴っておくか





「エレ、…あの150ルピーは」


「あ?給料日に返すっつーの」


「いえ、エレの貯金なので御心配無く…」


「……なっ!?て、メ!いつの間に!!つーかふざけんな!!」












例えばの話を、いくらでも作った

想像力を働かせて、都合のいい理由を、原因を考え出して、並べ繋げて、納得させようとした


ザントは悪くない、何か理由があった
やむを得なかった、そうするしかなかった、あの反乱はどうしても必要だった
そう思っていた、そして俺は今でも自分を騙しているわけだ







「おい……反逆者」



「……あ?」





トレイを二人前、それで両手が塞がっている男を待ち伏せて声を掛けた
奴は明らかに不快になり、目を細めた
俺は反射的に笑えた



「…何か俺に用か?」


「聞きてぇことがある……何でテメェは生きてんだ、ザントは死んだのに」


「……、さーな…ミドナ姫の御慈悲じゃねーの」




イクサは、軽い声で言い放ち、さっさと廊下を渡ろうと歩き出す
こんな問答にはもはや飽いているとでも言ったようで、俺の怒りは簡単に沸いた
擦れ違い様にイクサの胸ぐらを掴んで暗色の壁に押し付けてやった
高級定食は派手な音を立てて二つとも床に、無惨に落ちた
いい気味だコノヤロウ





「おまっ、食いもん粗末にしてんじゃ…―



「テメェが!親父をそそのかしたんだろうが!!」



「…!、……お前…ザントの」



「親父が反乱なんてするわけねぇんだ!テメェだろ、主犯は!そういう血筋だもんなぁ!?」



瞬間、イクサの目に冷たい殺気が滲み、俺は寒気を覚える
だが退かなかった、俺の方がコイツを殺してやりてぇんだ
つーか何だコイツ、背高いから胸ぐら掴みにくいだろうが、もう何もかもウゼェ



「…………」



「何か言えよボケが!」



「…俺が真実を言っても、お前、聞く耳持つか?」


「何だと?」


「俺を恨んで楽になりたいんだろ、お前…クレ、つったっけか?」


「っ、俺はエレだ!」



図星過ぎて、どうでもいいところしか反論できなかった
俺は上手く呼吸が出来なくなり、耳が何かに塞がれるような感覚に襲われた
嫌になる、逃避の術が、体に染み付いてんだ、ダセェ



「じゃあ、何で、…ザントは…何を考えて」



「それはザントにしかわかんねーだろーよ」




イクサはガシガシと頭を掻いて俺の腕を払い、次いで床に散らばった飯を魔術で片付けていく
余裕こきやがって、ムカつくぜ

この答えの無い胸の淀みも、ザントの残した罪の罰なら
俺は甘んじて、一生悩んで生きるしかないのか
イクサもそうして、生きてきた…?いや、考えたくねぇ





「何してですかそこのお二人」


「ん?あー…騎士団長さんか」



間延びした声の女が割り込んできた
やべぇ、騎士団長のドリューとかいう女だ
騒ぎを見た誰かがチクったらしい、ふざけやがる

ドリューはイクサにだらけた敬礼をする
イクサはこの女が苦手なのか、引きつった笑いでやり過ごそうとしていた



「あ、チミ、エレくんですね…もしかして何か無礼働いたんじゃ…」



ウゲッ、と声を漏らしそうになるのを寸での所で俺は堪えた
嫌になるが、今の俺は騎士団の全然下っ端の新人だ
それをこの女、どうして俺の名前覚えてんのか、知らねぇが
つまりは罰則が早い段階で降りかかることになりかねない
それ以前に大分いい身分のイクサの奴に楯突いた時点で首は飛んでるも同然だが

というかこの女、かなり面倒くさそうな顔してるぞ、やる気あんのか?






「こいつ、かなり活きがいいからさ、第一師団に入れてやれよ」


「「……は?」」



見事に俺とドリューの声が被ったものだから、イクサの奴がカラカラと笑いやがった

これはもしかすると、推薦、ってやつか?って喜べるかってんだ



「テメェどういうつもり…―!」


「イクサさんが言うなら無下に出来ないですね」



ドリューが俺の頭をド突いて言葉を遮りやがった
いや、上官なんだから当然だろうが何か ム カ つ く

イクサは手をヒラヒラさせて、食堂の方に戻って行く
定食買い直しに行くんだろう

何か納得いかねぇ、何か馬鹿にされた気がする、チクショー



「……はぁ、君、あんま暴れないでくださね、アタシ後始末面倒くさいですから」


「…了解、…何なら騎士団長の座、俺が奪ってやりましょうか」


「このゆとり世代が」


「給料泥棒女」





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