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ケース4

それぞれの旅路を往く人





「ねぇ、私思ったんだけどさ」

「うん…何?」

「人っていう字があるじゃない? あれって人と人とが支え合ってーっていう話があるわよね」

「あるね」

「正直この字、片方が思いっきり楽してるように見えない?」



眉と眉の間に皺を寄せ、小難しい顔をして真剣な声音で何を言うのかと思えば、主人公の唇が紡いだ台詞の終わりと同時にクロは頬杖を突き手に乗せていた顎を思い切り落した。
何と切り返していいのか分からず取りあえず苦笑を漏らし、クロは未だ深く考え込んでいる様子の主人公の赤い瞳を眺めていることにした。

目はあっていないはずなのに、事実彼女はあさっての方向を向いたまま、しかしクロに対しての言葉を投げかける。



「私の顔に何かついてる?」


「え? い、や………目と鼻と口が…ついてるよ」


「君って意外と面白いこと言うのね」


「……どうも?」


戸惑いながらも一応までに褒められているようなので笑って返事を返す。だがやはり主人公の目はどこか別の場所を見ていた。
その視線を追ってみるが、先にあるものは何ら変哲のない、ただの空だ。先程から黄昏色に染まった空を眺めるのに執心らしい主人公に何と声をかければいいのか迷うクロだったが、先に声を掛けてくれたのは向こうの方だった。



「クロって、何で旅なんかしてるの?」


「え、藪から棒に……。まぁ、簡潔に言えば俺は自分のことが知りたいんだよね。主人公は?」


「リンクを見つけたい、ただそれだけよ」


芯のある声で紡がれた言葉には、それ以上を追求させまいという真意が込められているようで、察したクロはこれ以上の問いかけはしないでおくことにした。本当は聞きたいことがもっとあったのだが、それよりもどこからか聞こえる喧噪の声に生まれた疑問はかき消され、自然と意識がそちらへと持って行かれる。
見れば主人公も同じことに気を取られているようで、軽く溜息をついていた。




「まったくもう……来るなって言っておいたのに、あいつらは」


「うわ、ムジュラが二人いる」


「そっちのムジュラがうちのムジュラに化けてるんじゃない?」


「……グレイに至っては完全に傍観者だし」


「勇者の影とクレチーム、ダブルムジュラとイクサチーム。どっちが勝つか賭けない?」


「いいねそれは楽しそうだ……って、ええ!止めないの!?」


思わず深く考える前に返答していたクロは思い直し、明らかに不自然な流れへ会話を持って行った相手に対して声を上ずらせる。その相手はというと、楽しそうに赤い瞳を細め口の両端を吊り上げてみせた。
どうしたものかとクロが言い淀んでいると、主人公が楽しそうな表情のまま開口する。



「私は勇者の影とクレに賭けるわ。勇者の影はともかくクレは私の言うことなら絶対聞いてくれる。焼きそばパンだって買ってきてくれる」


「え、ええええ……」


焼きそばパンの件りを聞いて半眼になりながらも、クロは気を取り直してはっきりとした声音で言い返す。



「じゃあ、俺はイクサとムジュラ二人組に賭ける。後者はともかく、イクサは絶対に負けないよ」


「何でそう思うのよ?」


「イクサは、俺の中で一番強い人だから」



見れば、当の本人は夕日色の髪を炎か何かのように揺らめかせ、巨大な鎌を振り回している最中だった。斬るというよりも振り回すという形容がぴったりの戦い方でクレと勇者の影を圧倒しているかのようにも見えたが、二人の早さを捉えきれずにいるようだ。
そして二人のムジュラからの攻撃も避け続けなければならないのは一筋縄ではいかない。

暫く決着はつきそうにないとクロはそう読むが、思いもよらない形で決着の兆しが見えた。
飛んできた炎の流れ弾が主人公の前髪を掠めたことによって。



彼女の無言が嵐の前の静かな凪に思えるのは、恐らくクロだけではないはずだ。



「クロ」


「は、はいぃっ」


「剣、貸してくれるわよね?」



有無を言わさぬ声で、そして眩しく輝く笑顔でそう言われれば剣を手渡すほか道は残されない。主人公は剣を鞘から抜くと邪魔だと言わんばかりに放り捨て、片手には光の矢を束のまま掴んで一層激しさを増した喧騒に向かい確かな足取りで近付いていった。

目の前のことに夢中で今この瞬間にも近づいている嵐に気付かない五人は相変わらずに打ち合い、少し離れた場所にいたグレイは危険を察したのかそろそろと気付かれないようにその場を離れる。
主人公が深く息を吸い込むのを見て、クロは両手で耳を塞いだ。




「あんたたちいい加減にしないと刻むわよ!!」




剣を振りかぶられながら言われれば小競り合いは中断せざるを得ず、すかさずクレが主人公の前に膝をつき頭を下げているのが目に入る。その後二言三言主人公が何かを言って、クレは離れた位置で正座しながら落ち込んだようだが、何を言われたのかは耳を塞いでいたためクロには聞こえなかった。
勇者の影は彼女を何とか宥めようと試みているがそれは逆に火に油を注ぐ結果となっていることに本人は気付かない。ムジュラ二人とイクサは、まったく軌道の読めない剣先から逃げるのに必死になっている。

もはや収拾のつかない事態になったとクロは感じたが、それでもどうしてかおかしくて、自然と笑みが湧き上がってきた。





Anoter Time
-もうひとつの時間-






何を笑っているのだとグレイに突っ込まれ、笑みが苦笑に変わるまでの時間は短かった。





END.
09.0401.

***

円様へ捧げるAM、時渡の面々共演…夢かどうかも怪しいという完璧翡翠の趣味(爆死)
誕生日、ということでありったけの祝いの気持ちを込めて贈りつけますよ(迷惑)とにもかくにも円様、お誕生日おめでとうございます!



* * *

「空渡り」の翡翠様より、円の誕生日祝いにいただきました!我が家のAMの子達と、翡翠様宅の長編「時渡」の子達とのコラボ!うちの子達を書いていただけたばかりか、楽しく八人で絡んで遊んでいただけて!ごちそうさまでしたうへへ(殴)

もうみんなみんな可愛らしくて可笑しくて、お互いの旅事情忘れて楽しい息抜きが出来たんじゃないでしょうか(知らん)
ダブルムジュラの際どい仲良しっぷりも、イクサくんとクレの兄弟っぷりも素敵でした!ですが勇者の影のデレに一番笑わせられました(何故)もう見ていて恥ずかしいけど清々しいくらいのデレでしたね、一体誰がこんなデレキャラ産み出したんだか…(殴)
取り敢えず円はイクサくんの単勝に巨人のサイフ賭けますね(聞いてない)

翡翠様、素敵すぎる誕生日プレゼントをありがとうございました!


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