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夜の小路といっても城下町ということもあってそれなりに人が歩いてた
昼間と同様に忙しなく帰路を急ぐ者は一人二人
立ち止まり何もしないかもしくは夜空を観察する者は三人四人
各々の静かな夜を過ごしていたが

どうも今夜はその雰囲気を打ち壊すよそ者がいた





「待てこらクソあまー!!」



主人公は走っていた
彼女の前方に走る青髪の女を追って
体力が無いのが自慢の彼女だが
ルピーを盗まれたとあっては無い体力をでっちあげてでも走るしかない

しかし犯人の女はスイスイと泳ぐように、滑るように、移動し
主人公を嘲笑うかのように時々後ろを振り返った



「くっそー、何だアイツ!」





女は人目を避けるように更に細い小道に入った
以前に一度この町を訪ねたことのある主人公の記憶がただしければ
その道は行き止まりのはずだ



(しめた)



主人公も透かさずその道に飛び込むように入っていく
家と家、そして町を守る城壁に三方向を囲まれた完璧な行き止まりだったが
追い掛けていた女はいない



「え!?うそ…」


主人公が周囲に抜け道が無いかを確かめたところで
上から聞こえた男とも女とも分けられない声に顔をあげた




《こちらです…》




「上!?」




明らかに梯子も何もない民家の壁を上った先に女は立ち
こちらを見下ろしていた
どうして女がそんな所に上れたとか
何故わざわざ主人公を誘い込むように声を掛けたとか
そういうことに頭が気付く前に
主人公の足は地を蹴り壁を蹴って民家の屋根の上に降り立っていた





「ルピー袋を返せっての!」



《……》



女は主人公が登ってきたのを確認すると
また屋根伝いに逃げ始めた




「あっ、待てって言ってんのに!!」








女を追い掛け右へ左へ
屋根から屋根へ
時々高い木の枝へ

主人公は必死に追い掛け回っていたが彼女も馬鹿ではなかった






(ずっと同じ所回ってるんじゃ…!?)



追い付いたかと思えばまたすぐにスピードをつけて距離を大きくし
かといって余り離れすぎないようにその女が配慮しながら走っているのに気付いた
しかもそうして気を漫ろにさせ
同じ所をぐるぐる回っていることに気付かせないようにしているのもわかった

この女に逃げる気など無いのか

そうであるとしたら
その女の奇妙な行動の意味するところはつまり…―






「おい!!!」





主人公は町中に響きそうな声で女を呼び止め立ち止まった
女も主人公と屋根一軒分の距離を置いて止まる





「あんた、何の時間稼ぎのつもりだよ!」





《心配しなくても…もう間もなくで済むことです》




女の青白い顔が不適な笑みを作ると同時に
いつの間にか遥か後方になっていた中央広場の方から爆発音がした



「んな!?」



広場の方から並々ならぬ水柱が噴出されているのが見えた
そしてそこに居るはずの勇者の影のことを思い出した









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