AM | ナノ



ケース3

勇者の影




「何というか」

「何だ」

「……平和だな」

「欠伸が出るほどにな」


言いながら本当に欠伸をしたのはグレイだ。
それにつられるかのようにして勇者の影も欠伸を零す。二人とも手で隠すこともせず盛大に。

黒い衣服と帽子、そして灰色の髪に赤い瞳がよく似た二人だが、どことなく違って見えるのは容姿ゆえ、だろうか。注視すれば前髪の分け目も服の細部も違う二人は何故か先の二組とは違い、和やかな雰囲気を滲ませている。
視線の先には旅の動向人である女二人がいるのだが、話を邪魔したら後が怖いので少し距離を取った場所に座り込んでいた。そこでは意外にも争いが勃発することはなく、魔物であるがためか元が同じ人物であるためか、理由は不明だが意気投合したというのが今の状況だ。



「主人公と……クロといったか、何を話しこんでいるのだろうな」


「女同士で積もる話でもあるんだろう」



勇者の影は気になる様子だが、対してグレイは気にならないらしく、無関心に軽くあしらった。
一旦会話を切り上げ、もう一度欠伸をしたグレイは、ふとどこからか近づく騒々しい足音に気付く。そちらに顔を向ければ顔を顰めるしかないような光景があり、事実勇者の影もそんな表情を浮かべ鞘から剣を抜いていた。



「何をする気だ」


「食い止める。主人公の邪魔はさせない」


「………好きにしておけ」



完全に傍観の態勢に入ったグレイがそう言おうと言わなくとも、勇者の影は剣を構え、計四人を止めたことだろう。眺めれば、何とも不揃いな容貌の面々が敵意をむき出しにしていた。約一名を覗いて。
その一名は無表情のまま武器の短剣を両手に握ってはいるものの、それを勇者の影に向けるか否かを迷っているよう。そこにすかさずつけ込む勇者の影はある意味強かだ。



「クレ、貴様は主人公の邪魔をするのか」


「………自分は、主人公様、を……」


「最初に邪魔をするなと言っていたのを忘れたわけではないだろうな?」


「………………」



にやりと笑みを濃くした勇者の影に斬りかかるでもなく、クレは顔を数秒間俯かせ、しかしその両足は確かに彼の隣へと歩み寄っていた。
結果的に一対の短剣は、先程まで共に並んでいた三名へと突き付けられることとなる。



「あ、テメっクレ!裏切るのかよ!」



「裏切るも何も、最初から味方になった覚えはありません。自分は主人公様にだけ従います」


イクサの責めるような視線も鬱陶しそうに退け、クレは今の立ち位置を固定したようだ。
前触れもなく飛んできた魔力の塊を目にも止まらぬ速さで後退し避けるも、逃げ遅れた前髪の先が黒い煙を上げて焦げた臭いが鼻につく。息を吐く暇もなく、追い打ちとばかりに第二射がクレを襲った。
それを避け飛んできた方に黄色の目をやれば毒々しい髪を揺らす二人のムジュラが手を掲げていた。




「なんだ貴様ら、意外と息が合っているな」


「うるさいゾ勇者の影!」


勇者の影の冷やかしを一蹴したムジュラが一体どちらだったのかを判断に迷ったのは、何故かどちらも黒紫の長髪を揺らし黄緑色の瞳を炯々と光らせていたからだ。どうやら赤紫が黒紫にシェイプシフトしたらしい。


そんな二人のムジュラの罵詈荘厳を皮切りに、喧嘩と言うには激しすぎる乱闘が幕を開けた。




NEXT FINAL!






[*前] | [次#]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -