ケース2
禍の仮面
「ネェ」
「ネェ」
二つの人型は同時に声を発した。
それが気に障ったのか、両者とも口をへの字に曲げてみせる。
黒紫色の髪を揺らし、黄緑の瞳を背け頬を膨らますムジュラは不機嫌そうにして頭の後ろで両手を組む。対して赤紫の髪が地面に着きそうなほど長く、前髪で瞳を隠しているムジュラは口元に手を添えるも欠伸を隠そうとはせず、心ここにあらずな状態だった。どことなく似通った雰囲気を共有する彼らが似ているのは当然のことで、その雰囲気を共有する者同士が相いれない性質を持っているのも少し考えれば当然のことだ。
「主人公、今頃なにしてンだロ」
「さーネ、気にナルノ?」
「当然でショ、主人公はボクのなンだカラ」
その発言を聞きクスクスと笑うのは赤紫のムジュラ。もはやどちらがどちらだか分からなくなりそうなので、赤紫と黒紫に分けて見ることにしよう。
笑われた黒紫のムジュラは不機嫌さを増し、「何笑ってルノ」、言いながら周囲に禍々しい魔力を蔓延させた。恐らくそれに対抗するだけの魔力を秘めていると思われる赤紫ムジュラはケタケタと笑うのを暫く止めず、そちらからも魔力を放出して対抗しようとする素振りも見せずにいる。
その余裕が更に気に障って癇癪が爆発しそうになる黒紫を諌めるかのように、もしくはおちょくるかのように軽い調子で赤紫は話す。彼の性格を考慮すれば後者が本意である可能性が非常に高い。
「キミってサ、純粋で忠実ダヨね、ムジュラなのニ」
「ナニソレ、ボクに喧嘩売ってるワケ?」
「イヒヒヒ……止めておきナヨ、ムジュラ同士で争っテモ決着なんて永遠ニつかないヨ」
わざとらしく相手に聞こえるよう舌打ちして、黒紫のムジュラは魔力を納めた。赤紫の言うことにも一理あったし、何よりも他人の欲を糧にして存在を維持する者同士が戦ったところでそれこそ本当に無意味な行為であると理解している。
黒紫のムジュラは自分がもう一人いたら絶対に仲良くなれないと思っていたが実際に実現されるとこれはこれでまた違った感覚があり、そしてやはり仲良くなれそうもないということを心の底から悟った。
今現在自分をムカつかせている原因をみやれば、前髪の奥の瞳の光すら目に出来ない。目は口ほどに物を言うとよく言うけれど、この赤紫ムジュラは確実に口だけで全てを伝えムカつかせることが出来る天才だと黒紫のムジュラは思った。
「マァ怒らないデ、ボクだっテ悪気アッタワケじゃないシ」
「悪気あったら、殺すケド?」
少なくとも八割以上は本気であろうその発言を笑って受け流し、赤紫のムジュラは続ける。
「今頃キミのご主人は、クロとお茶でもシテると思ウよ」
「え、ズルイ。ボクも行きたイ!」
「ダァメ。女のコ同士で楽しク話しタイって言ってタモン、キミのご主人モ怒るとコワイでショ?」
「ムー……それじゃあ女のコになって行けば主人公許してくれルかナ」
本気で考え始めた黒紫のムジュラをこれ以上引き留めようとすることを赤紫のムジュラはしなかった。何故なら彼も今まったく同じことを考えていたからだ。流石互いにムジュラなだけあり、考え方などは共通する点が多いらしい。それは彼らにとって決して喜ばしくないことであるのは確実であるが、ムジュラという存在を世界に確立させていた。
「あ、クレだ」
「イクサも」
ふと視界に入ったのは青と橙色の影。二つの影は常人では考えられないような速さで二人の女性がいあるであろう場所へと向かっていた。
黒紫のムジュラと赤紫のムジュラは顔を見合わせると、宙を蹴って彼らの後を我先にと追い掛ける。互いに押しのけ合い鋭い爪が肌に食い込むが気にもかけず進む。
「ちょ、邪魔ァ!」
「オマエがナ!」
背後で言い合う二つの人型を振り返り、イクサがぶっと吹き出した。
クレもその気持ちが分からないでもないらしく、それを咎めるような目で見ることはせず、むしろ背後の二人に視線を固定していた。
「うわ、お前らどっちがどっちだかもうわかんねぇよ!」
「これでは見分けがつきません……魔力もほぼ同位ですし」
「「こんなムジュラと一緒にするナ!!」」
騒がしい喚き声を引きつれて彼らは目的地へと向かう。
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