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不動の大地を、巨人が無理矢理引き剥がし動かそうとするかのような、底の知れない地震だった
今まで何となくやり過ごしていたどんな震動よりも激しいそれに、ゴロンの里を初め、赤い地に住まう命達は騒然として逃げ惑い始めた

「え、ちょ…これはヤバくない?」

クレを送り出して尚も温泉に浸かり続けていた主人公は、ぼんやりと下がる瞼のまま赤い山の頂を見上げる
空を濃い暗色にする煙を昇らせる
その火山の火口から、爆ぜる溶岩と共に荒々しい勢いで飛び出した
炎の塊、否、焔を纏う紅竜が




「ヴァルバジアっ、ヴァルバジアゴロ―!!!」

「嘘!?」


温泉のすぐ傍、売店のゴロンが赤々とした魔獣に指差しをして叫び、さっさと丸まって岩石よろしく転がり下山に徹してしまった

よりによって三人が居なくなったこのタイミングで、誘き出すまでもなく標的が現れてくれるとは
大変迷惑な展開であると嘆き、主人公は漸く悠長な入浴を自省した

慌てて用意していたタオルに身を包み、半端に服を着直す、その間も、蛇のような長い身体をうねらせて火口の辺りの宙を旋回し、ヴァルバジアは、鋭い眼光に彼女の姿をとらえ、次の瞬間、主人公に向かい一直線に下降してきた



「うわぁァァあーー!!!」


売店のカウンター内に飛び込み咄嗟に身を隠す主人公に向け
ヴァルバジアは構わず突っ込み、しかし狙いが正確ではなかったらしく、売店のすぐ横の岩壁にもろに頭突きをしていた

小規模に落石を発生させる振動に、主人公はただひたすら叫び
体勢を整えて素早く走り、里の中を行く





「主人公ー!!お前いったい何したゴロ!」

「うぉ、わっ、っダルボス!!」

里の舗装されていない道を逃げ走っていたところ、彼女に向かい転がってきた巨岩に身構えた主人公だったが
突如動きを止めた岩はゴロンの姿に変わり主人公に豪快な声を投げた
族長ダルボスは円らな瞳ながら迫力のある顔で主人公を責めるように言い寄った
ヴァルバジアが火山から飛び出したことに主人公が関与しているか否かなど知れたことではなかったが
どうもこう言ったアクシデントやトラブルと主人公が仲の良い間柄にあることを承知しているぐらいには、二人の友好は深かったらしい


「知らないよ助けて!!!」

「そうか?まぁ里のモンもこれくらいで死ぬこたぁねぇだろうからな、お前もしぶとく逃げるゴロ」

「私がしぶといのは周りの助けがあってはじめて……、ってダルボスー!!話聞きなさーい!!!」


再び岩のように身体を丸め、ドスンドスンと音を立て弾みながら火山から遠ざかっていく豪快な男に虚しく手を伸ばす
人の話を聞かないマイペースなゴロンっぷりが憎々しく思えたが、そんなことに舌打ちしている暇もない
ヴァルバジアの咆哮が曇り空を引き裂かんばかりに轟いたので、主人公は脇目も振らずダルボスを追いかけるように走り出した



落石かどうかも判別しがたい転がるゴロンの群れに紛れつつ、里を抜けて山道へ差し掛かると
主人公の周囲を走り一緒の方向に逃げていくゴロンたちを追い払うように
紅竜は火炎を吐き散らしながらすぐ傍まで追っていた

辺りを見ればいつの間にか一人になっていた寂しい状況に、主人公はハッとして首だけ振り返る
狙いを定めやすくなったヴァルバジアは、間違わず主人公に向けて口を広げ突き進んでくる



「ひぃィィイ!!」



『ギャァァ――――!!』


竜の雄叫びが何よりも勝り主人公の悲鳴を掻き消し鼓膜を痛めるので
主人公の身体はすくみ足が止まる
目をつむり諸々の衝撃に備えて全身を固まらせてしまった


しかし襲い来るはずの痛みも熱さも
何故か無かった






「ん、……ん?」



固い鱗に覆われた顔を、主人公の腹や胸に擦り付けるようにして
あろうことか、目を細めて満足気に喉をグルグル鳴らしているヴァルバジアがそこに居たのだ




「ぉ、おぉ!!?君いい子!?」


よくよく見れば話に聞いたものよりも随分と小さい竜だ
頑張れば宿の一室に押し込められそうな体長である

悪意が無いのかと問えば、ベロンと熱い舌が主人公の顔を舐めて竜自身が肯定した


「う、ぇ…べっとり…」


しつこくまとわりつく唾液にテンションが下がりながら
主人公は矢立に引っ掻けておいたものを手に取る
それは以前まで勇者の影の首にあった銀の首輪
首輪の側面を撫で付けるように手を這わせると、彼女の魔力に反応してか、輪がその直径を広げ変形していった

何を気に入ってなついているのか知らないが、全身で甘えてくる噂の邪竜の、その首に、主人公は首輪をカッチリ嵌めた





「んー…、ヴァルバジア確保!」



難なく捕獲成功に至った天空への道
無駄に各地へ派遣してしまった彼らの不憫は考えないことにして、主人公は鎖を握り、新たな仲間と下山した






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