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「おぅ!主人公じゃねぇかゴロ!」



里の者が暮らす洞穴の奥まで進み入ると、豪快な声が彼女達を出迎えた
ゴロン達の現族長、ダルボスである
この一族特有の岩石のような巨体、それも飛び抜けて巨大なダルボスの前には、主人公が先に遣わせたらしいクレがポツンと見えていた
ムジュラは隅の壁に人の姿のまま身を寄せてつまらなそうにしている
クレは主人公を見るや否や、機敏に彼女の前に跪き頭を下げた



「主人公様、族長殿への挨拶は滞りなく…」

「うん、オーケー」

「……」


クレの報告も半ばにあしらい、主人公はダルボスの方へ近付く
先に自分達の来訪を族長に報告するように言付かっていたクレだが、主人公とダルボスが顔馴染みであるのは先の豪快な声で知れた
クレは何か、自身が空回りした心地にさせられ立ち尽くす、そこに遅れて歩んできた勇者の影が並んだ




「久しぶり、旦那」


「元気そうで安心したゴロ…まだ物騒なハイラルで一人旅は危険だゴロ」


「私がそんな簡単にくたばるわけないじゃん!」


「ガハハハッ!そうだったゴロ!!お前はしぶといからな」


一人ではなく、主人公の仲間が見えていることを、ダルボスも主人公自身も忘れて会話が続いた
魔獣の雄叫びにも引けを取らない程の迫力ある声が笑い
空洞の空気がビリビリと震えて隅で傍観を決め込んでいたムジュラも怯む、と共に耳を抑えた

間近のはずの主人公は揃って笑いながら
ダルボスの豪腕が激励の為に彼女の背中を叩こうとするのをヒラヒラ避けて平然としている

力加減の出来ていない、しかし悪意の無い攻撃の渦中にいる主人公を見ては、離れているクレは気が気ではなく、今にも駆け寄って行かんばかりに靴が地の土を若干後ろに押し寄せていた




「…一々気にし過ぎだ、貴様は」


「……、心配ではないのですか」



勇者の影が軽く諭してやるも、あまり納得はしていない様子
確かに、彼女との旅はヒヤヒヤすることばかりではあるが、一々助けに入っては身がもたないばかりか主人公に嫌がられるだろう



「過保護すぎるのは嫌われるぞ」


「……っ!」



勇者の影は少し自分のことと重ねてボソリと呟いた
クレはクレで、先日主人公から酷く怒られたことを思い出し苦々しい表情を微かに見せる




「…自分は、勇者の影が嫌いです」


「…………は?」


「………」



急に何を、と見返したが分かりやすく顔を背けられて勇者の影は苛立つ
好きやら嫌いやらの感情を、必要でない場面で表に出すのは、彼にしては珍しい筈なのだが、勇者の影はそれに気付けず素直に彼への嫌悪を募らす










「ところでダルボス、私達火山の中に用があるの、鉱道に通してくれない?」


「……!」


彼らの険悪さを他所に、着々と空気を暖かくしていた主人公がそう切り出すと、急にダルボスの笑いは消えて表情が張り詰めた



「駄目だゴロ!火山の恐ろしさをお前は知らねぇゴロ!!それに今はヴァルバジアが中で暴れているゴロ!!」



一変してダルボスはドスドスと地面を踏み鳴らし、主人公の申し出を断った
彼の言葉に応じるように、周りで傍観していたゴロン達が、奥の壁にある鉱道への道を塞ぎ立った

主人公はムッとして目を細め暫く黙ったが、やはり岩の如く動じない彼らの固い態度に負けて渋々引き下がった















「はい集合ー!」


洞穴を出て里の片隅の台地にまで来ると主人公が揚々とそう言い放った
集合するまでもなく三人は近くに寄り集まっていたが、取り敢えず主人公の顔を見るように向き直る




「ヴァルバジア捕獲の為の作戦を発表するよ」



やはり、と思ったのは自分だけではないはずだと勇者の影は呆れ思う



「火山に入れないなら、外から誘き出すだけだわ」


「アハ、なぁんか楽しソウ」



然して興味が無いのか、あっても参加する気は無いのか
他人事のような口振りで笑うムジュラに、主人公も笑顔を送る、にんまりと

と言うわけで、と本題に取り掛かった主人公が最初に目を合わせたのはムジュラだった




「まずムジュラ、あんたはスノーピークでロース岩探し」


「…エ、ドコソレ?」


「雪山よ、んで次に勇者の影は、城下町でガールハント」


「俺に拒否権は」


「無い、で、クレは私の側で待機」


「畏まりました」



ヴァルバジアの好物と聞いたロース岩と美人、その調達を言い渡す
クレが素早く礼をして会話は終わる、かと思われたがそんなことはなく
ムジュラと勇者の影が、納得がいかないと食いかかる



「何でボクがユキヤマ!?寒いの嫌なんだケド!!」


「俺も納得出来ない…百歩譲ってどんな下らない遣いをしてやってもいいが、何故こいつが残るんだ」


「えー…」



ムジュラが駄々を捏ね始めて地団駄を踏み、勇者の影はクレに対して不躾に指差しをする
主人公とクレが結果として二人きりになるのが気に食わないらしい
少なくともベストな人選だと思って自信満々に人事異動を言った主人公は不満気に反論した



「だってムジュラは仮面だから寒くないだろうし…勇者の影はハイラル回ってきたからそーゆうの分かりそうだし」


ブーブー声を漏らしていたムジュラは途端黙り込む
これを断ってしまっては自身の力が衰えていることを皆に教えてしまうことに繋がりかねない、と考えて渋々俯くだけとなった
だが勇者の影はまだ噛み付くように、無表情の男の顔に睨みを送っていた



「それに私を守る為に誰かが残ってくれなきゃ」


「それは、俺が、クレよりも、頼りにならないと言いたいのか?」



見兼ねて主人公が言葉を付け足すが、逆効果らしい
さりげなく保身に走る主人公の利己的な発言にも構わず、勇者の影が矛先を向けるのはクレの方だった
そういうわけではないけど、と言葉を濁し困り果てる主人公に助け船を出すべく、黙り込むだけだったクレがズィッと進み出て間に割り込み、勇者の影に無機質な視線を返した



「自分が勇者の影よりも強いか、その答は解りませんが」


「何だ…」


「主人公様を護ることならば、貴方よりも自分が適任です」



「おぉっ、言い切った!カッコイー!」



 
ブチッ






先程の空回り気分を払拭するかのような清々しい物言いに主人公が素直に賛辞を言い
対して勇者の影はこめかみで何かがぶちギレる音を聞いて俯いていた




「ムジュラ、俺は城下を破壊し尽くしてしまうかもしれない…」


「ウン、じゃあ出張先トリカエよっか」


「……それは断る」








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