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小規模な地震に足を取られながら(主に主人公が)、デスマウンテンを登り
翌日の昼過ぎにはゴロン族の集落に辿り着く
平原を歩くよりも何倍もの体力を消費する山道に
表情の乏しくない三人の内、筋肉をフル活用する二人は疲れを隠しもせず息を吐き
特に主人公の方はこってり搾られたように、流した汗もそのまま、赤土の地面に座り込む始末




「疲れたぁーー!!」


「……、まっ…たく、だ」


主人公のスタミナの無さを指摘する気力もなく、勇者の影はついつい彼女に同意してしまった

だがムジュラが笑いを転がす隙も
ましてや主人公に待ち受ける温泉の喜びを思い出させる隙も与えず
里の入り口に通りがかったゴロン族の一人が近寄り、何やら忙しない手振りで知らせに来た



「あんたら悪い時に来たゴロ!」


「お?」


「大方予想できたが…」


主人公は目を輝かせながら顔を上げ、対して勇者の影はゲンナリと項垂れる
噴煙の発生源に、地響きを辿りながら向かってきたのだから、このデスマウンテンで何かの事件があるのは予想できた
寧ろそれが主人公の狙いでもあるのだから当然こうなる



「火山がヤバいゴロ!邪竜が復活したゴロ!」


「邪…竜…?」


「早く下山した方がいいゴロ!」



見れば里の低所の陥地に里の者達が集まり、脅威についてゴロゴロゴロゴロと語り合って震えていた
忠告をした親切な彼も、そそくさとその中に入って行ってしまった

邪竜、と聞いて一際鋭く目の紅を光らせた主人公は、もはや息切れもなく、立ち上がり、何事かをクレとムジュラに言い付けた
了承した二人が里の何処かへ行くのを端に見、少し目を離した隙に主人公がゴロンの集団に割り込んで行こうとしているのに気付き、勇者の影は慌てて追い掛けた







「ねー、邪竜って何なの?」



急な下界の人間の声の乱入に、ゴロン族達は一斉に主人公に振り向き
円らな目をひんむいて、邪竜を知らないとは何事か、と多くの声が説きにかかる


「デスマウンテンに封印されていたヴァルバジアだゴロ!」

「ハイラル全土を一夜にして丸焼きにするという伝説の魔獣ゴロ!」

「魔王の刺客ゴロ!魔王の復讐ゴロ!」

「好物はロース岩らしいコロよ」

「ゾーラの川よりも長くてでっかいゴロ!」

「自分を封印した勇者を恨んで目覚めたんだゴロ!」

「俺たち食べられるゴロ!逃げたいゴロ!」

「噂では美人に目がないコロよ」



ハイリア人よりも巨大なゴロン族の身体が犇めき合い、主人公に詰め寄り囲む暑苦しい図が完成している
勇者の影はそれを一、二歩退いて顔を引きつらせて見た
当の主人公はと言うと、今にも倒れ込んで押し潰して来そうなゴロン達の群にも怯まず
腰に手を当てて胸を張り、満面の笑みで彼らを見上げ
よく通る声でもう一つ質問した







「ちなみにそのヴァルバジアくんは飛べるかしら?飛べるわよね、竜だし」




好き勝手な邪龍の伝説を恐々と話していた声がどよどよして止む
何故この彼女はそんなことを気にするのだろう、と彼らは顔を見合わせたが
根本がおっとりした性分のゴロン達はあっさりと流されて主人公の言葉を考え始める



「そりゃあ…飛べるんじゃないゴロ?」

「そうゴロ?翼があるとは聞かないゴロよ」

「でもお前、考えてみるゴロ、ヴァルバジアが空を飛ばなかったら変ゴロ」

「地を這うゴロ?格好悪いゴロ!」

「だからヴァルバジアは飛べるゴロ!」

「ヴァルバジア飛ぶゴロ!」

「ヴァルバジア格好いいゴロ!」

「ヴァルバジアは格好いいゴロ――!!」




うぉぉーー!!、と勝手に盛り上がり、何故か終いには踊り出したゴロン達の集団から
悠々と戻ってきた主人公を、迎える勇者の影は唖然顔で固まっていた
一部始終を遠目に見ていた勇者の影には、次の彼女の言葉が予想できたからだ


「主人公、まさか…とは思うが」



「ふふーん…そのまさか、ヴァルバジアに乗って天空に行くよ!!」





山の火口付近を貫くように主人公の指が示す

それが果たして噴煙の原因であろう邪竜を指したのか、黒雲の先の天を指したのか

勇者の影は取り敢えず全てを疲れのせいにして黙っておくことにした









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