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「で、何しに来たの君たち」


「東郊外のアクタ跡地を巡回中、急に光陰の陣が出現したんで、調査に来たっ…、き、来まし、た」



頭にこぶをこさえてぎこちない丁寧語にしているのは双子の兄の視線が痛かったからであった
エレは痛みに涙ぐみながら、主人公の問いに答えた

地平の向こうに、日はすっかり落ち
痩せ木の立つ丘に、野宿のための火を囲み六人が顔を合わせている
ドリューがあっという間に魔術で仕上げたシチューが振る舞われ、皆久方ぶりのまともな食事にありついてもいた



「光陰の陣…?」


「光と陰りの世界を結ぶ入り口を司る呪いの羅列です、陰りの鏡の模様のことらしですが」


主人公に御代わりの分のシチューを盛り付けてやりながらドリューが補足した
以前に見た騎士団の団服に身を包むエレに対し、何故か彼女はやたらと厚手のローブを頭から被り、動きずらそうである



「でもまたどーして郊外なんかに入り口が出来たの」


「だからそれを調査に来たんだよ!族長にも許可は取って来たぜ」


「エレさんがごり押ししたですよ、クレさんに会いたいからて」


「んなっ、誰が!この俺がいつそう言った!!?」



言わなくてもそんな慌て様では言っているも同然である、とその場の全員が心を揃えて思った
食事中に唾でも飛ばさん勢いで喋り、強く否定を続けるエレに、隣に座っていた勇者の影は苛々が積もり、クレと同じ要領で彼の頭を殴った



「黙れ、耳障りだ」


「痛っ、あんだと…!このエセ影が、俺を殴りやがったな!?」


「一々大声を出すな、黙らせるぞ」


「やってみろよ、テメェ死ぬぜ?」


睨み合った二人の間、火花は治まらず、皿を下に置きそれぞれ剣に手を伸ばそうとしたところ
クレとムジュラが、各々隣り合っているエレと勇者の影の後頭部を押し出し、険悪な二人は額を強打して崩れ落ちる羽目になる


「ドッチもうるサいヨ、バーカ」

「食事中はお静かにお願いします」


主人公はそれを呆れた目で眺めつつ、三杯目を貰う為にまたドリューに皿を差し出す
ドリューは自身が食事にありつく間もないほどの主人公の消費ペースに呆れていた



「で、その入り口を通って来たら、勇者の影の影だった、てこと?」


「でもモウ閉じちゃったヨ、ほら」


立て膝をして行儀悪くスプーンを進めていたムジュラが、その片足を隣の地に伏す勇者の影の影に置いて二、三度踏んで見せる
それは焚き火により小さく揺らめくだけのただの平面で、何も起こらず、ムジュラの足もそのままだ




「君たち最悪帰れないんじゃないの?」


「アタシはよく調べてからにしようて言たですよ、なのにエレさんの兄弟愛がこんな…」


「違ぇっつってんだろボケが!」


主人公はドリューのシチューを流し込むように次々と口に掻き入れて
咀嚼の間にうーんと唸った


「でもまた開くかもね…黄昏時に」


「どしてそう言えるですか」


「だって前もあったし」


「それマジですか主人公さん」


ドリューの間延び声が少し高くなり問うので、主人公は頷く
以前も黄昏時、それが起こったのを知る勇者の影も、起き上がり早々反応して主人公を見た
ムジュラはと言うと、微かに目を細めたが、興味の無さを装うように、人参を避けてシチューを食べていた

だがあれから今日まで幾度も黄昏時はあったが、その度に勇者の影の影に道が通じていた訳ではない
何かしらの条件が揃った結果なのだ、と主人公は考える

「砂漠の処刑場から東…」

主人公は地図を取り出して地面に置き、現在地と砂漠を結ぶように指を滑らす
ドリューも興味を持ちハイラルの地図を覗く


「処刑場の場所に影の宮殿があるとすると…」


「あ、そうです丁度この辺りの地点ですね」


「位置関係は二つの世界で繋がってるみたい…多分平原じゃないと駄目だったのかもねー」


ドリューが熱心に主人公の話を聞き頷いて、何処からか取り出した黒いメモ帳に、光る青インクでペンを走らせていた
何かとガミガミグチグチ溢して勇者の影と揉めるばかりのエレとは違うので、真面目に調査に来ている彼女に主人公は感心した

そういえばドリューは何故黒いローブに身を包んでいるのか
覗かせる手にも黒皮のグローブをして露出を控えているのだ
じっと観る主人公の視線に気付いたドリューが、ああ、と察して声を漏らす


「影の民は光に弱いですから、こちの世界の強い光の中、これしてないと忌み躯になるんで」


「忌み躯?」


「化け物一歩手前です」


主人公がそれを聞き、思い浮かべたのは、いつかの平原で三人に襲いかかってきた影の使者の姿
あれがその忌み躯とやらに該当するのかは不明だが
ドリューがこうもうんざりした顔になりローブを着てまで避けたがるのだから、光の世界に来ることは相当な代償を受ける可能性があるらしい

しかし主人公は首を傾げる
例外が二人も揃って目の前に居たからだ



「でもクレも、エレも普通そうじゃん」


「そなんですよ、どゆことですかエレさん」



ドリューもそこを納得していなかったらしく、主人公の言葉に頷き、一緒にエレの方に目を向けた
丁度夕食を食べ終わり、満腹の溜め息をしたエレは聞くなりニヤけた笑いをした




「俺らは先天的に光の耐性が強いんだよ、母親が光の民だからな」




エレが何気なく、というより鼻に掛けるように言った
ドリューも主人公も目を見開き、勇者の影とムジュラも各々動きを止めて耳を傾け始めた
だが、一番驚いたのはクレだった




「今、なんと……」


「は?、…もしかして知らなかったのか?」


「自分は…聞いていません」


「ちょとそれ、どういうことですかエレさん」


「何か私も気になる、かなり気になる」



唖然とした声を漏らすクレを尻目に
主人公とドリューが食い付いて、焚き火の向こうから身を乗りだすようにしてエレの話の続きを促した


「聞きてぇか?ザントの淡い恋物語だぜ」


「聞きたいですエレさまさま」

「うんうん、聞きたいわ騎士団長殿」


「……」



恋物語に敏感に、目を輝かせる二人の女子のおだてに、気を良くしたエレは腕を組み高笑いする
クレはそれをそば目に、無表情の下に複雑な心境を隠す

















 古来より陰りに生きる我らの、命脅かす存在は数多い。その中でも国を囲み蔓延る闇の海は、最も多く、同胞を呑み、更には地を蝕む災厄として恐れられてきた。名を芥とす。

 無限にも広がるこの芥を、消し去る術は未だ見付からず、もはや打つ手無しとされ研究は中止を余儀なくされた。

 しかし私は可能性を見た。ソルの力により芥の闇は遠ざけられていることに気付いたのだ。ソルの力、即ち光。

 勿論、この可能性に気付けた研究者は私以外にもいた。だが王宮より圧力がかかる。陰りの世における光とは、最も強大にして希少な資源。これを不必要に探り求めること、利用を試みることは大罪とされている。

 在るかも知れぬ光の世、そんな夢物語の如き楽園があるならば或いは…。しかし確証の無いものに期待はできない。私は芥を深く知るため、永影の地の果て、闇の海へと赴く。




 私は闇に呑まれた。芥の闇に呑まれた同胞は残らず理性を失い、醜き魔物の姿へと変えられる。この治癒の術もまた不明であるため、しばしば軍属の兵に討たれる末路であった。心痛むべきことだ。そして私もその一途を辿るかと思われた。しかし目覚めたそこは、見回せど光ばかりが溢れる、眩い、楽園であった。

 それは黄昏時のことであった。どうやら黒雨の多く吹き出す黄昏時、芥の闇に生きる魂達の、その影は道となるらしい。闇の影、矛盾の孕む空間は歪みが生じ、世界を繋ぐようだ。闇に呑まれたかに思えた私はこれを通ったのだ。




 私は光の世に流れ着き、一人の娘と出会う。我らの肌のそれよりも一層深い青の御髪湛えた、美しき、光の、娘であった。それは陰りの世には無い、蒼空の色。光の色。私は強く、恋い焦がれた。















「そんでザントは光の女にうつつを抜かし、なんだかんだあって、俺らが生まれたわけだ」


ザントがかつてに残した研究書の一部だろうか
思い出し読み上げるように、しかし肝心な場所を端折って言い終わったエレは、得意気な顔をして、クレの肩をポンポンと叩く
クレはやはり無表情でそれを流すが、最初より幾分か呆気に取られているように、その顔には力が抜けていた



「何か、すごい話聞いた気がするですが」

「うん、だってザントってあいつでしょ?一、二年前に、光にも影にも迷惑かけたエセ王」


「おいエセ王とか言うなボケ!」


「光の研究してた人だったんだねー」


「てゆか、今の話…光陰の陣の出現条件知てたじゃないですかエレさんコノヤロー」


「俺がいつ知らねぇって言った!?」



つまり彼は黄昏時にのみ開く道と知った上で、無理に調査という名目を作り光の世界に来たのだという
これでは益々、強大な兄弟愛説を自身で固めているも同然なのだが、皆面倒なので敢えて触れなかった
ドリューは無数の星瞬く夜空を見上げ感嘆するように呟く



「しかしあのザントさんが…奥さんがいるのもまず考えられませんけど」


「ザントの若ぇ頃は俺ぐらいの男前だったんだぜ」


「うぇージブンで言ってるコイツ!」


ムジュラが茶々を入れ始め、また騒々しさが湧こうとしていた
皆、主人公以外は続々と食事を終えて来たようで、最早それを止める者もないようだった

しかしながら喧騒を遮るように、勇者の影の天然爆弾が投下される







「それ以前にどうやって光の女と子を成せるんだ」






一斉に全員が凍り付いたのは言うまでもない







「ドリュー…このボケ任せた」


「ラジャです…いいですかエセ影さん、光と影と言えど、詰まる所大事なのは受精という過程でありまして…――」



真面目に勉強する姿勢で頷く勇者の影に
ムジュラはニヤつき、主人公は失笑して視線を送る
ふとその視線を外した時、一人輪の中から外れ冷めた表情で平原の闇に目をやるクレを、主人公はそっと気付いた








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