AM | ナノ






日が暮れると人通りが少なくなると言うのが町や村の普通の姿だか

城下町の南通りは特別に人が賑わっていた
町の市場というだけあって最後の大売出しとばかり商品が格安になる店が多く
未だ人々が所狭しと通りを埋め尽くしていた


「これじゃはぐれそうだわ」

「はぐれられないだろう、俺たちは」

「ん、何かそれ変な意味に聞こえるんだけど」

「寝言はいいから行くぞ、宿はどこだ」


自分に鎖が繋がれていることなど忘れて勇者の影はずかずかと人込みを掻き分けていく




「うわっ、待って待って!」


人込みとは言っても流石は都会の人間
お互いにぶつかって面倒を起こすような真似はしたくないのか
頑張れば人ひとりくらい通れそうな隙間は空いていてなかなかスムーズに進むことができた

しかし鎖を持っているのに遠慮なくさっさと進んでいく勇者の影の姿は
人込みの中から突き出ている黒い帽子でしか確認できなかった


(はぐれないとは言え、なかなか不安だなぁ)


黒い帽子を見失わないように人々の間を縫うのは難しかった





「うわっ、冷た!」


「あら、ごめんなさい」


前から誰かがぶつかってきた
主人公はよろめいて思わず鎖を強く引っ張ってしまい
少し前方で勇者の影の咳き込む声と
その周辺の人々の驚愕の声が聞こえた



「本当にごめんなさい、私急いでいますので…」


ぶつかったのは紺のローブで全身を覆った女だった
女は長いアクアブルーの髪を揺らして西通りへの裏路地に逃げるように走っていった



「何だ、あの人…ってか何か冷たかったし」


「おい!貴様何してくれた!?」


勇者の影の怒鳴り声が雑踏の声に混じって聞こえ
主人公は慌てて前に進んだ













「ルピーが無い!!?」



城下町の中央広場に悲痛な声が響く
しかし最近の旅人を狙った盗難が相次いでいたので町の人間はもはやそんなことには慣れてしまったらしく
誰も彼も驚いたり同情してやったりしない
それが面倒を嫌う都会の風景だ



「おい、ならば本当に野宿するとか……」

「いや、それだけは無い!ありえない!でもルピー袋が無い!!」


懐にしまっていた袋にはルピーがパンパンに詰まっていたが
それがそっくりそのまま消えている




「そういえば……」



主人公は今し方潜り抜けてきた南通りを見た
そして一度だけ派手にぶつかったあの女の姿を思い出す


「あの女か!?きっとあいつにスられたんだ!」


「盗まれたのか…?」


「私、取り返してくる!西通りに逃げたのを見たから」



待ってて、と言い残して主人公は西の大通りに走り去った




「……全く、面倒な女だな」


勇者の影は噴水の縁に座り彼女の帰りを待つことにした


(盗難に気を付けろと言われた直後だというのに…馬鹿な奴だ)


グチグチと内心だけで呟き勇者の影を罵るが
鎖の端が自由になって逃げられる状態だということに気付かない自身の馬鹿さ加減を勇者の影が知るのはまだ先ことだった






[*前] | [次#]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -