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「アノブタには光の矢じゃナイとダメなんでしょ!!あとマスたーそード!」


村の外れの森の中、息を潜めて変わり果てたトアルの地を見ていた子供たちが、ボンバーズのリーダーの言葉を聞いていたのだった













避難の最中、泣き震える赤ん坊をあやし始めたウーリの手から離れ、コリンは人知れず村に引き返していた
それは正義感のようでそうではない
ただ人を突き動かす根本の衝動がどうしても少年の足を動かした
あの村が消えてしまえば同時に消えてしまう
それは生まれてからの年月と共に刻んだ思い出であり
故郷の存在であり
黄昏の景色であり
村人の笑顔であり
あの村が消えてしまえば同時に消えてしまう
皆が求め共有するものはあの地にしか咲かない
言葉に出来ないながらも
真っ白で真っ直ぐな気持ちだった

そして兄のように慕っていたあの人に繋がる記憶もきっと失われてしまうと

(りん、…く……リンク…?)

「コリン!アホかお前!」

「何処に行くのよ!」


「タロ、ベス…僕、僕、やっぱり村に」


子供の動きなら子供が敏感に気付く
一人避難の波を戻り走るコリンに
タロもベスも親の目を盗んで追い掛け、何かを思い出しかけていたコリンの思考を遮り肩を、手を掴み止めた

だが一緒に着いてきていたマロは、最年少にして肝が据わったような無表情で三人を追い越し、村の方へ森を行く


「お、おいマロ!!」


「諦めは可能性を殺す…マロマートも、城下町に進出、できたぞ」


「商売とは違うのよ!」




「でも、…あの人なら、諦めない、よね」



あの人、とコリンが思い浮かべる人物を
三人とも数秒呆気に取られながらも同時に、同一に、思い浮かべる

数年前、村を襲った悲劇に巻き込まれた彼らを、国を駆け回って探し助け出した、あの人、を
奪われた記憶の端からじわりじわりと思い出していく

そうして無謀な決心に、結束を固めた四人は村に戻り、冒頭のような台詞がムジュラの口から出るのを聞いてしまったのだ



「マスターソード?」


「なぁにそれ…?」


「…あれじゃねぇか?、イリア姉ちゃんが前に言ってた、勇者の剣」


「しかしあれは…森の深くに、あると聞く…」





「あなた達探したわ!!」


エポナに跨がり、酷い汗をかくイリアが森の中を駆けて子供達の前に止まる
恐らく村人達が彼らの姿が無いことに気付き、何人か、はたまた大勢でか、捜索騒ぎになったのだろう


「イリア姉ちゃん!」

「酷いのよ、村が!」


イリアは苦々しく頷き、子供達を宥めた
此処に来るまでに村に近付いたのだ、火の海に沈んでしまった故郷の姿に唇を噛み締めた跡が確かに彼女にも残っていた
しかし目を伏せなければならない


その間にも、村で戦う者は立ち向かい続けていた
ああ、っと子供達の悲鳴が揃う
暴れる巨獣に呆気なく倒され、残るは女が一人となっていた

彼らには見覚えがある、昼間の珍妙な客たちだとイリアは気付き、無意識にエポナの手綱を握りしめていた


「あなた達は、避難場所に戻りなさい、いい?絶対よ!」


早口に、念を押して言い終わると、イリアはエポナの腹を蹴り走り出していた
村の炎の中に迷わず飛び込んでいった皆の姉に
四人は目を丸くし、そして決心を固くした

避難所ではなく、未だ見ぬ森の聖域の景色を想像し、求めて彼らも走り出した

























「早く!タロ早く!」


「無茶言うなベス!これかなり、うぎぎ…お、重いんだぞ!」



四人の子供が夜の森に繰り出し、無事に帰ってくるのを誰が知り得ただろう
だが村の大人たちも、主人公たちも、彼らの危険な行動を咎められるものは居ない
それは光だったから

順番に交代で、重い一つの荷物を持ち運び漸く辿り着いたのだが、しかし
数時間前の村の景色とのあまりの違いを、大きな目にそれぞれ入れた子供たちはまず足がすくみあがった
焦げ臭く、無惨に家の跡に積まれる瓦礫は雨に打たれ霞んで見える
炎に揺らめきぼやけていたそれらを、改めて間近に見
そして漂う絶望の空気を肌に感じた





「り、リーダーが!!」

「あ、…!」


泣きそうになるタロを村の入り口に置いて、ベスとマロが駆け出し、コリンも続く

かぼちゃ畑のあった黒土の上にムジュラが黒紫の髪をばらまいて伏していたのを見つけたのだ



「リーダー!生きてるの!?」

「し、死んでないよね!?」

「…、息、してない、な」


雨に打たれただけのことか、すっかり冷たくなった手を取りベスが悲鳴を上げる
冷静そうなマロも、男の口に当て呼吸を確かめる小さな手は震えていた


村を襲った魔獣の、禍々しい姿の全てを目に収めるほど勇気は無かった
最後に村を離れるときに垣間見た元凶の、燃えるような鬣は未だ子供たちの記憶に新しい
それでも不思議と、ムジュラやその仲間たちが災厄を退けるのだと信じることはできた




「嘘だろ、こんなの…っ、いやだぁ!!」



タロは此処まで引き摺り運んできた物を投げ出し、空の雨雲に嘆く

つられるように、ベスも泣きじゃくり、マロは唇を噛みしめ俯く

だがコリンだけは、いつもハの字に垂れる眉を、きつく引き締め立ち上がった
タロの元に戻り、かと思えば彼の側に転がってしまった、長く美しい剣を両手で掴む
少年の手にそれは重く響き持ち上がらない
それでも諦めず、もはや腕に抱えながら、切っ先を地に着け、擦りながらも
未だ禍々しい空気を放つ牧場へと向かい一歩、また一歩、踏ん張りながら進む











「貴様が持つのは、百年早い…」




ポン、と雨水も弾くようなコリンの金髪に、重々しく手が置かれる





「え…?」



呆けた声を出すコリンの腕から剣を、マスターソードを取り利き手とは逆の手に収めた勇者の影が
フラフラと、少年よりも覚束ない足取りでコリンを追い越す


闇夜から突如現れたようなその男の、ただならぬ雰囲気に子供たちは泣くことも忘れて目を見開いた
彼らの長耳に、ただ激しくなっていくばかりの雨音が、どこか、優しく響いた







「ムジュラ…、死んだふり、か…?」




勇者の影は泥にまみれながら寝転がるムジュラの頭をブーツで容赦無く蹴る

余りに鈍い音が男の頭から聞こえたのを
ベスは目を瞑って自分のことのように痛みに耐える仕草を取る

ムジュラは眉間にかなり皺を詰めながら
渋りに渋って黄緑色の目を瞼から晒す




「…グ、ェ…、オマ…コロス、よ」


「さっさと起きろ、…」


「アハ、は…酷イこと、言ウな…ぁ」


「貴様がこれくらいで、死ぬか、ムジュラの名が、聞いて…呆れるな」



ムジュラは軋む手足の訴えも聞かずに身を起き上がらせる
勇者の影の手に渡ったマスターソードを目に映し、力無くほくそ笑んだ



「勇者の影に、ツカエるの?」


「使う、俺にしか使えない」


紅い眼は何かの確信に満ちた色であり
自信以上にたぎる熱が冷たい蒼白の肌の下、血を沸かせていた

ムジュラはカラカラの喉で器用に笑いを溢して、素足でピチャピチャと音を立て歩き始める



「ボンバあず諸君、ごくロー、サン」




ムジュラはニィ、と口隅を広げて、くたびれた笑顔を、そして敬礼の真似事を見せる
少年たちがこんな行動に出ることを知っていたのかは謎に包まれる


泣きながら、でも少しずつ絶望を砕きながら
子供たちは額に手を添え返す










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