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何か大事なことを知らされていない
それはまだ子供だからななのだと、子供ながらにコリンは思う

朝日の兆しも見えない夜中に、急に母親に起こされた
明かりも暖炉にも火を入れず武装する父と、幼い妹を抱える母と、それから間もなく家を出た



朝日の兆しも見えない夜中に、村の中は騒然としていた
毎日突き合わせ見知った顔の村人達が
慌ただしく駆け、イリアと村長が彼らを牧場へと誘導していた


「母さん…?」


手を引く母を見上げても、答えはない
否、聞こえてもいないようだった
夜の暗さに慣れた目は、母ウーリの顔の蒼白さに気付かせた

村の中心を通る道を行き、牧場へ行き着くと
山羊が危険を知らせる鳴き声をこれ以上無いほど、舎内から響かせ
そこに固まる村人達と、子供の泣き声もあった


「タロ、マロ、…ベスも」

「コリン!」


子供たちの塊に、そろそろと近付けば
真っ先に少年の声に気付いたベスが涙も拭わずに抱き着く
悲しみではなく恐怖なのだとすぐに分かる


「村が、無くなんの、か?トアル村が!」

「魔物の群れが、襲いに来ると、聞いた…ぞ」


平生の様子を失い、この世の終わりに取り乱すのに等しく、タロとマロが嘆く
縁起でもないことを喚く二人の声から、村人達に一層不安が広がり行く

星の見えない真っ暗な闇夜の空を見上げてはコリンも涙を抑えきれなかった



その時、地鳴りのような魔獣の咆哮が村のすぐ側から上がり森の隅々にまで行き渡る
続いて村の入り口の方向から強烈な衝撃とその振動、そして煙が昇るのが見えた

呂律の回らない村長の、悲鳴じみた声が何かを呼びかけ
その代わりを引き受け、イリアが声を張り上げて村人に、更に森の中へ避難するように言う


誰もが村を捨て、生き延びることを選んだ
だがそのどれもは苦渋の選択であったとコリンは思い、惜しみ
強く手を引かれながら振り向き村の景色を目に焼き付ける

そこに赤赤と、平穏を焼き尽くすような色の、魔獣の鬣が映り込み、離れなかった



































ただでさえ東西南北、方角を見失い兼ねない森の中
星も殆ど隠された夜空の状態では完全に八方塞がりもいいところ

しかし主人公一人、迷いなく樹海を駆け抜けていた

目指す場所は寧ろ分かりやすかった
ガノンが派手に何処かに衝突して舞い上がる煙
気まぐれに吠える掠れた醜い鳴き声
それに乱暴に地を抉り駆けていく四足の振動
それを追うだけのこと

加えて通った跡が大きく残るとあれば、後は体力を使いきらないように主人公は走るだけだった






「オイ女!」




「ん、え!?…スタルキッド!」




茂みを揺する音が走る主人公に追いつき、姿を表す
木の太い枝、細い枝に限らず身軽にこなして渡り、平行して走る小鬼が主人公に向けて何かを投げ寄越す
受け取ったそれは光を帯びる矢束が詰まった矢筒だった



「光の矢…!」


「キキキ、キ、!光の精霊から、差し入れだゾ」



光の精霊に会いこれを受け取ったということは、頼んでおいた件には片が付いたのだろう

主人公は走りを止めず、矢束だけを自身の腰の矢立に突っ込み、受け取った筒を雑に投げ捨てる
砂漠でガノンドロフと戦ってからというもの、中身が寂しかった矢立が重みを取り戻し、主人公は満足気に笑う



「ありがとー!」


「伝えておくカ?精霊に」


「要らないわ、あんたに感謝したの!」


「分かった!キキキ!!」


あくまでも神々云々の類いには恩義を感じたくはないので、皮肉気味に主人公は吐き捨てる
スタルキッドの顔一杯に裂けた口が愉快に笑いを転がした
その様子を見る限り、この小鬼がそれほど信仰深いのではないと分かる


そうしている間にも魔獣の呻きが近くなる
森を抜け主人公は開けた場所に漸く出た
立ち止まる足は渦中に飛び込む前に身心を落ち着かせるため

トアル牧場に出てきてしまったらしいと見当をつけて主人公は辺りを見回す
スタルキッドは森から出たくはないのか、姿は見えなくなっていたが
気を付けろよ、死なないように、と生意気な声が暗がりから聞こえた気がした








「あれ、村が…!」



夜空を染め上げんばかりに、赤橙色に灯るものが村の方に見える
火が巡り、上がる煙と喉を焦がす臭いが主人公の元にも届く

弓と矢を背に確かめ、身震いを止めるように手を握ると、主人公は村へ走り出した







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