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「何故、未だ勇者を探し続ける」



主人公の走る速度に合わせながら少し後ろを走る勇者の影が唐突に言った
もはや体を動かすことに疲れていた主人公は、自身の息遣いや風を割っていく音に遮られ、え?と聞き返す
勇者の影は再度、少し声を強くして問う



「貴様が勇者を探すのは何故だ!?」


「だからネールに頼まれたって…」


「ですが、主人公様は神々を信用なさらないのでは?」



先を行き急襲に備えるクレも、珍しく積極的に会話に参加した
森の中、木々に覆われた空を見上げ疎らにある暗雲を見失わないよう目指している最中に
そんな質問攻めは止めて走ることに専念して欲しいと主人公は思った







「だって仕方ないでしょ、命握られてるんだから!」


「なっ!?」





顔の向きを変えずに主人公は走りながら前方に叫ぶ
思わず勇者の影は彼女の手を取り立ち止まらせた
体を自分の方へ向かせて両肩を掴み
互いの紅い目を間近に合わせる



「本当なのか」


「な、何」


「何故今まで黙っていた!?」


「言ったって仕方無いでしょーが!」



すっかり本来の目的を飛ばしてガミガミ言い合いを始めてしまった二人から少し離れながらクレは
まるで痴話喧嘩でも見せつけられているようでいい気分ではなく
吐き出せない溜め息を中に蓄積させていく

その時、また地震紛いな揺れが襲いかかる
言い合いは直ぐに止み、彼らが向かっていた方から此方へ
大きく荒々しい足音と、なぎ倒される木々の痛々しい悲鳴が近づいていた





「何なの!?」


「主人公様、お下がりください」


「言われなくとも!」



主人公は当然という顔で二人を残しかなり後退りをする
土煙が舞い上がり、魔獣の咆哮が響く
そうして飛び出すように木々の間から現れたのは人型を成したムジュラだった




「ムジュラ!何をしている!!?」


「ンげ勇者の影!!主人公トくれモ!!」



ムジュラは勢揃いしている仲間が自分を迎えに来たと都合よく考え顔を輝かせる反面
全員揃って危機に陥り兼ねないことも浮かび焦りを覚えた




「ぶた!が、ヤバい!の…!!」


「何だ?」


「豚が如何いたしました」



ムジュラが漸く迎撃体制だった勇者の影とクレの元まで駆け寄ると
二人の腕を引き逃げようとジェスチャーをする
ムジュラのそんな焦り様を誰も見たことがないだけに、伝わらず

直後、森を猛進し、おぞましい咆哮を上げた本当の犯人、魔獣ガノンがムジュラの後を追うように
森に大きな道を作りながら彼らの元に突っ込んできた





「なっ――――!!!」


「キた!だから逃げヨウって言ったノニ!!!」


「貴様、伝わるように言え!!」


「しかし随分と巨大な…豚肉ですね」


「馬鹿が、あれはガノンドロフだぞ!」




粗方の突っ込みを終えて漸く勇者の影は走り出し
ムジュラもクレも、魔獣と同じ方向へ走る


直進するだけのガノンに比べて、三人は木を避けながらの逃走なので少なくない不利があるようだが
あの三人ならどうにかなるだろうと、魔獣の直進コースから反れた木陰で主人公は彼らの活躍を祈る






「そっちは任せたよー皆…、さて、…ガノンの復活に手を貸した馬鹿は何処かしら」




この騒動にはガノンの意思とは関係無く裏で糸を引く何者かがいると主人公は考えた
もしそうではないにしても、時を奪われた森の聖域や暴走したマスターソードにまた何かが作用した筈である



主人公は知らなければならない
魔王を復活させ、凶悪な魔物を世に放ち操る黒幕を
そして世界が終焉を迎える理由を



魔獣ガノンが走った跡に沿いながら、主人公は森の奥へと進む









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