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真夜中の村外れ
主が不在のその家に久々に明かりが灯っている


慌ただしく扉が開かれて飛び出した主人公の手には已む無く仮面の姿になり喚いているムジュラが収まっていた





「ヤメロヤメロナンデサ主人公ステナイデヨバカァァアー!!」


「飛んでけぇぇーーー!!!」


「ヤダァァアアアァァァ ァ  ァ…――!」


彼女なりの全身全霊の力を込めて利き手から仮面を投げ飛ばし
星瞬く夜空に向けて絶叫と共にそれが溶けていった



「主人公!燃えるゴミは雑貨屋の裏手に出す決まりだぞ!」


「どーしてトアル村のルールに詳しいの勇者の影!?」


「それ以前に、ムジュラは生ゴミの分類ではないでしょうか」


「あれ、ムジュラも呼び捨てに格下げ!?いやいやてゆーかあんたら根本間違ってるじゃない!」



ムジュラが飛んでいった方向の空を見上げて
誰もムジュラの心配や主人公への非難などせずに扉から顔を覗かせている
丸っきり廃棄物扱いにされた仮面に哀れみを覚えながら、主人公は二人の言葉を否定した



「別に投げ捨てたんじゃなくて、偵察に行かせたのよ、天空の」


「天空…?それが次の目的地ですか」



話を進めやすいクレの質問に主人公はいい笑顔で頷き肯定する
そんな流れに勇者の影は一人、面白くないという風に表情を曇らせた




「地上の何処にも居ないなら、空しか無いでしょ!」

主人公は自信満々にそう言い放ち家の中に戻っていく
テーブルの上に広げてある地図に、バンッと手を置いて二人に示した


「ハイラルの上空に浮かぶ天空都市…噂だけの存在だと思ってたけど、多分それね」


「確かに勇者は天空に行ったことはあるが…」



平面で天空都市なるものの位置を示すなら、確かにハイラルに近い
というよりもハイラルに重なって見えることになる
しかし三次元的に考えたとき、それはハイラルの大地からとてつもなく遠くなり得た

それがミドナの言う『ハイラルに近くも物凄く遠い場所』であると解釈する主人公に
勇者の影は待ったをかける


「俺たちは行く手段が無いぞ」


「あれ待って勇者の影、その話も気になるけど今の口振りは…」



主人公は何やら静かな口調でありながら確かな殺気を含ませて勇者の影に振り返った



「天空のこと知ってたんじゃないのよー!!?」


「がっ―!!」



顎を強く殴り上げられた勇者の影は床にうずくまりグラつく意識を繋ぎ止める
辛うじて意識を失わなかったのは、彼を殴ったのが主人公ではなくクレだったことへの怒りが強かったからだ



「貴様、っ何のつもりだ!!」


「主人公様の手を煩わせるまでもありません」


「よし、ナイスクレ」


「ありがたき幸せです」


「っ、貴様ら…!俺は主人公に殴られるなら我慢もするがこの根暗に殴られる筋合いは無いぞ!!」


「ちょっ、何恥ずかしいこと言ってんの勇者の影」


「…自分は根暗ではありません」




自分が主人公に対してかなりのデレ発言をしていることに気付かないまま、勇者の影はクレを睨み付ける
クレは根暗と言われ、軽く傷付きながらもそんな心中を顔には出さず、勇者の影の前では見す見す落ち込まない姿勢をとっている




「ったく、探してない場所が天空しか無いって知ってたんなら教えてよね…無駄に考えたじゃない」



「だがもう一度言うが…天空に行く手段は無いぞ」


「あー…何かすごく聞きたくないんだけど、どーゆうこと?」



脳の揺れが治まってきた勇者の影は未だクレに警戒しながら立ち上がり答える



「勇者は大砲を使って天空に行った…その大砲はもう無い」


「大砲…?」


「ハイリア湖で亡霊と戦った時に大破していただろう」



顎に手を添えて主人公は記憶を掘り起こす
ハイリア湖で戦った亡霊と言えば、ムジュラの仮面を被り巨大化したメグのことだろう

微かに思い出されるその時の光景で
巨大メグの持っていた大きな松明、それの炎を消し落とした時に
トビーの物とは別に陸地に据えられていた誰かの大砲が松明と衝突し大破していた様がうっすらと主人公の脳裏に浮かんだ




「えぇー!!嘘!!じゃあどーすんのよ!?」


「そもそも大した確証も無くノリだけで行ける場所ではない…諦めろ」


「確証は無くも無い、てゆーかある」


「どういうことでしょうか」



暖炉の火の中でパチ、と弾ける音がした
気が付けばその家の中は幾らか明るさが夜闇に負けて暗くなり始める

主人公はボヤけた灯に横顔を照らされ
少し言うのを躊躇うように目を泳がせている







「多分…天空に聖地があるのよ」




「聖地、だと?」




「リンクは神の奴等に拉致られたんだと思う」





ロマンチストの妄言か、フィクションの自由さをフル活用する小説か
それほどに信じられず、あり得ず、意味が解らないことを口にした彼女に
勇者の影もクレも耳を疑いに疑った






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