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テーブルの上に地図を広げ睨み合いつつ
主人公は唸る

次の目的の地を定めるのにかなり苦労しているらしい


「ハイラルに近くも遠い…か」





ミドナに言われた言葉を思い返す

去り際にそんなナゾナゾを含ませてヒントを寄越すなんて
本当にやってくれる、と主人公は思った
クレに聞いても、それについての伝言は無いらしく
役に立てなかったことを謝られてしまったのは光の世界に帰ってすぐのこと




「リンクはどこよ…」



ハー、と幸せを逃がす息を吐きながら
主人公は机に突っ伏し地図にシワを作る






そこで荒々しく、家主の居ないこの家の扉が開かれて
勇者の影とクレとムジュラが
何か険悪な空気を引き連れて入ってきた

流石に四人も招き入れるとその家も狭く感じる



「あ、お帰り三人」


「貴様…勇者の住居で何を寛いでいる」


「へー、やっぱりここリンクの家なんだ」


散らかったままの端のテーブルとセットの椅子に腰掛て
明らかにこの家のものと思われるマグカップで暖かい飲み物を傾けている主人公に

先ほどまでの緊迫も忘れて勇者の影の眉間が少し狭くなくなった



「今日はここに泊まろうと思って、誰も居ないし」


「オトマリ!?」


「そ。クレー、今日は私シチューが食べたい」


「…シチュー…、畏まりました、では食材を調達して参ります」



ムジュラが目を輝かせて何かを期待した目で主人公を見て
主人公は暢気に、久々の安息を楽しもうとそんなリクエストをして
クレは一瞬戸惑う声を漏らしたが、直ぐに頭を下げて村へ向かうべく外に出た




「待て、主人公…この村からは早く出るぞ」


「え?」


「ナニ言ってんだよバカか!!?オトマリダゾ!!!それデモ男か!!?」


「勇者はここには居ない、俺が以前来た時から何も、匂いが変わってない」



いつの間にか上階に登っていたムジュラが信じられないという風に怒りだし
勇者の影に向かって枕を投げ落とした
勇者の影は頭にボスッと当たるそれも気にせずに喋る
ここがトアル村であると気づいて、何とか現在は光の世界にいることを理解したようだが
それと同時に早くおいとましてしまいたいくらいの不快さを感じている








「でも、だって勇者の影に探ってほしい記憶があるのに、リンクって言う猫がいてそれが…」







「猫…か、食べた筈だったがやはり、猫は殺しておくべきだった」






「な、何言ってんの勇者の影…」






以前にも猫が完全に記憶を失わない例があり
それが関係して勇者の痕跡が残ってしまったことを
勇者の影は悔しがるように目を歪めて顔を逸らした

残酷なことを突然言い放った勇者の影に主人公は呆気にとられてカップを落としそうになっていた






「何故俺が勇者を探すのか…、ムジュラの言う通り、存在を消すためだ」




勇者の影はムジュラを見上げて、それから暖炉にくべられた火の色を眼に焼き付けて
自嘲気味に言った




「勇者を殺す為だ」




主人公がゆっくり、まさかの勇者の影に対して警戒を見せながら
椅子から立ち上がった




「皆の記憶を奪って、最後には勇者自身も殺して…完全に消すつもりなの?」


「それが俺の存在意義だ」


「本当にそんなんで消せるわけ無いよ」



何か漂う空気が狂気じみている
今まで主人公には向けられなかったそれが向けられて彼女は背中に汗をかく

ムジュラは一人、家の上階から二人を見下ろして
何か難しい話をしているという雰囲気は知っても首を傾げて理解できていないようだった




「記憶は連鎖した情報なの、リンクだけ消したって、どうしても残る感情はあるんだから」



リンクと深くかかわってきたこの村の者ならば尚更、消しきれずに矛盾が多々生じるのだ

それでか、と勇者の影も納得する
記憶を奪った筈のイリアが、勇者の影の面影に、リンクの姿に、反応を示したのは、説明しがたくも、必然であった

記憶を剥ぎ取り、取り込んでもそれは、勇者の影の望む結果は得られないということらしい




「俺が手緩かっただけのことか…なら村の者全て消せばいいんだな」



「ちょ!そういう考えに転換しないでよ!!」




勇者の影はもう主人公の声に耳を傾けずにさっさとリンクの家を出て行ってしまった
これはやばいことだ、平穏の代名詞みたいなトアル村が血の海になるなんて勘弁して欲しい



「ムジュラ!勇者の影を止めて」

「ウン、分かった」


ムジュラは高い位置の手すりから飛び降りて扉の前に着地して勇者の影の後をさっさと追っていく
主人公が頼むのよりも一寸早く、求めらるかと思った見返りやらご褒美やらは何も約束させられなかったのはどうも妙だったが
どうせムジュラの気まぐれなのだろうと思い捨てて

主人公はカボチャスープのお代わりをカップに注いだ









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