AM | ナノ








雑貨屋の看板猫、その名はリンク

見た目は普通の猫
店主のセーラ曰く賢いネコちゃんだと言う

店内を区切るカウンターに座り好物の魚を食べる猫を見下ろして主人公は
ムズムズと、堪えきれない笑みを最小に抑えていた
彼女の考えが当たっているなら、その猫が何かの手掛かりになり得るようだ




「女将さん、この子の名前…」


「いい名だろ?賢いこの子にぴったりの名前だよ」


「誰かから名前を貰ったんじゃないの?」


「よく分かったねぇアンタ、その人みたいに賢くなるように願いを込めたのさ」

「その人は、…名は?」



奇妙な会話が繰り広げられているのを主人公は自分で質問しながら感じていた
誰か、そう尋ねるのは何か矛盾している

名前を貰って、猫はリンクという名前になったのだ
だから元の人物の名はもう明らかである

しかし




「さてねぇ…誰だったかねぇ…」



セーラが頬杖をついたまま首を傾げて、頬の肉が口隅に寄った
特にわざとらしくとぼけているわけでは無いようだが
つい先程の会話で十分に明らかになるはずの答えに手を伸ばさないで全く分からないと唸る




「記憶を奪われるって、こーいうことか…」



主人公はセーラの悩ましげな表情を眺めながら別のことを悩みの種とした

















「コリンはね、以前は少し気の弱いところがあったのだけど…」



コリンの母親のウーリが
幼子を腕に抱えて椅子に座りながら主人公に答えている

眠気を誘うような暖かい光で照る家は愛の溢れる家族のもので
主人公#は少し居心地が悪いような、ともすればずっと居座っていたいような気持ちになっていた



「今はもう立派なお兄さんよ…牧場でファドさんの手伝いもしているの、最近は」


「コリンの名前は、誰かに因んでつけたとか…ない?」


「…いいえ?そんなことはなかったわ」



二文字、リンクに似ている気がして
駄目元ながら訊いてみたらやはり違ったようで主人公は肩を落とした



「でも…誰だったかしら…その、誰かみたいに、強く優しくなって欲しいって、言ったことがある気が…」


「それって、リンクっていう男の子じゃない?」



「そうだったかしら…ごめんなさい、よく分からなくなってしまったわ」



答えを与えてみてもうまく記憶の隙間は埋まってくれないらしい

ウーリもまた同じように考え込み
主人公は少しずつ分析する











昼を過ぎた頃の牧場の真ん中で
主人公は貰ったチーズを貪りながら、次は牧場の主のファドに話を聞いていた


「別に毎日普通さ、山羊が一日一匹のペースで逃げ出すのも、…もう日常だよ」


「そんなんでよく今まで牧場やっていけたね…」


「そこなんだよな、こんなに逃げられてたらもっと前に牧場は潰れちまってたはずだ…そこが不思議なんだ」



コリンが手伝っているらしいがその甲斐もあまり無く
牧場の事態は深刻であるらしい



「でもまあ山羊追いはしっかり出来てるんだ、エポナが手伝ってくれるからさ」


ファドが指差す先に、牧場の隅で足を折り畳んで休む馬が見えた
主人公はファドが颯爽と馬で駆けていく似合わない図を思って苦い顔をし
ファドに視線を戻す



「ファドさん、乗馬するの?」



「いや、しないさ、エポナが自分一人でやってくれる…誰も教えてないのに、考えてみればこれも不思議だな」



ファドは呑気に、不思議なことと言って終わらせる

その答えの全て、勇者の影が知っているのだと主人公は知っていた
























「離せよー!!」



「今離せば最悪死ぬぞ」




手足ばたつかせていたタロはその低い声に冷や汗をかいて大人しくなる

もう森を抜けてトアル村に向かっていた勇者の影とクレを発見したボンバーズは
主人公の指令をどう勘違いしたのか
迷子の二人に子供の力いっぱいでの攻撃を仕掛け返り討ちにあっていた

ベスとマロは悲鳴をあげて村の方に逃げたが
タロは勇者の影の手に捕まり
腰帯を掴まれて持ち上げられていて

それをどうにかしようとコリンはオロオロして少し離れて慌てていた




「全く貴様は…子供をけしかけてどういうつもりだ」

筆頭にやってきていたムジュラに、勇者の影は睨みを利かせてみるが
ムジュラは相変わらず楽しげに彼を見返した



「だっテ主人公が、勇者の影がコドもに袋叩キに合うところガ見たいってイウからさ」


「そんな馬鹿げた願望を叶えようとするな!」


「…それ以前に、主人公様がそのような無意味な命を下すはずがありません」



ムジュラへの突っ込み所を間違えている勇者の影にクレが分かりやすく訂正した

しかしそんな正論を耳に通さず
勇者の影とムジュラの間で険悪な雰囲気が膨らみ睨み合いの凄みがましていく
勇者の影は片手に持っていたタロを近くに放り投げて黒剣の柄に手を伸ばした
ムジュラはムジュラで彼を煽るつもりの嫌な笑いを吐き出している

投げられ地面に転がる羽目になったタロが目に涙を浮かべ始め、コリンがそれをまたどうにか慰めようとするが
恐い男達から放たれる殺気に自分も泣き出しそうになっている


収拾のつかなくなってきた現状に
クレが一人珍しく、溜め息を、吐き出した

















「知能の低いガキ共が…」













瞬間、全てが凍りついた
ムジュラでさえも目を見開いて
勇者の影は冷や汗をも引かせて
泣きそうだったタロもコリンも固まって


皆、今しがた、かなり信じられない言葉を発したクレに大注目した

当人は透き通るような黄色の目を横に泳がせて
何事もない、いつも通りの無表情で背筋真っ直ぐに立っている



フィローネの森の端、そこで
森の聖域とはまた違った意味で時間が止まったようだった










「あなた達、その子達に何してるの」




そんな折、語調強く、若い娘の声がその場を助けに割り入った









[*前] | [次#]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -