AM | ナノ






道なりに森を抜けて行くと村に辿り着き
そう言えば当初はこのトアル村に来る予定があったことを主人公は思い出す




「勇者の生まれ育った村、ね…」



それなのに今まで主人公が此処を訪れなかったのは
勇者の影が身勝手に勇者の記憶を人々から奪った後で
手掛かりを掴めそうに無いと諦めたから

だがもはやそうとも言っていられないほど、主人公は切羽詰まっていた
ただの片鱗でも何か勇者に繋がるものを見つけなければならない






「アレ、主人公やっと来タ」


「ん?この声は…」



村へと続く道を行こうとした矢先
主人公の耳には聞きなれた声が飛び込んできた

振り返り見ると、村外れに構えられた大樹の家があり
そこの高窓からムジュラが顔を出していた





「なに人様の家に侵入してんのよ!!」


「コレ空き家ダカラいいんダヨーキヒヒ」


「空き家?」



立派に表札まで立っている家が空き家とは信じがたく
主人公が訝しいと思っているとその隙に
ムジュラは狭いその窓から身を乗り出した、かと思えば
姿を消してすぐに主人公の目の前に出現する



「下僕のフタリはァ?」


「下僕って…何処で覚えたのそんな、っ言、葉、っと!!」



主人公の言葉の最中、普通の会話を装ってムジュラが突然抱きついてくるのを
彼女は避けてついでに顔に張り手を見舞ってやった




「うわ、すげぇあの姉ちゃん!」


「イヤーん、リーダーがやられちゃってる」



ムジュラの覗いていた窓から別の顔が二つ見えて何やら感嘆していた

何事かと、主人公が見上げた時にはもう顔は引っ込んでいて
代わりに家の中をドタバタ移動していく小さな足音がいくつも聞こえてくる
間もなくして子供が四人、扉から出てきてムジュラに群がった




「女に弱い…男の性、か…」


「なに変なことぼやいてるのよマロ!リーダー大丈夫?」


「何、リーダーって何?ムジュラ、何のリーダーなの?」


「ムヒヒ、主人公知りたいノ?」



倒れたムジュラが赤くなった頬を抑えて起き上がれば
四人の子供は素早く横一線に隊列を組み
各々好き好きに決めポーズを作り始めた




「燃える欲望!焼き付く魂!」


「爆裂戦隊ボンバーズ、けん、ザん!!」」


一番元気のいい少年、タロと、センターを陣取りやたら楽しそうなムジュラが、キレのある声でそう言い放ち
紅一点少女、ベスがムジュラにくねくねして熱い視線を送り
顔の力が抜けきったような少年、マロも意外と乗り気で
一人金髪の少年だけはモジモジして彼らに付き合っていた

子供を嫌ったムジュラがどうしてこんなに打ち解けているのかなんて当人こそ不思議に思っていたが
現在はかなりいい顔で輝いて見える

そんなふざけすぎた男にはサクッと無視を決め込んで
主人公はモジモジした男の子に手を振った



「コリン、久しぶり」


「主人公さん?…主人公、えっと…久しぶり!」



下ばかりを見ていたコリンがよくよく主人公の顔を見て表情を柔らかくした

リンクのことについて忘れてしまった彼だが
主人公のことはしっかり覚えていた



無視されたムジュラはブーブー言っているかと思いきや


「リーダーのそのポーズすげぇぇ!!」


「まぁネ、ボクはムジュラだから」


タロに決めポーズを猛烈に褒められ
ムジュラがそれを伝授しているので意外に忙しいようだった




「ねー、ボンバーズ諸君、この空き家、勝手に使ってもいいの?」


「別にいい…もうずっと、誰も住んでない…」


「でもねぇー、誰かが住んでた跡が残ってるわよ」



マロとベスが顔を見合わせて不思議がった
宿として使えはしないかと尋ねたのだが、気になる言葉を耳にして
主人公#は少し視線を流して目に入った表札の側まで行く


『   の家』、とそれだけが微かに読み取れるほど文字は掠れていた






「リンクの家…かな」





何となく、それから自身の淡い願望も含ませて主人公がそう推測する

誰も住んでいないのは、皆がそう理屈づけているだけではないのか
誰かが居たという事実が、その者の存在の記憶を奪われたことが
その家には何者も暮らしてはいなかった、と
誰かが住み着いていたような痕跡だけが不思議と残っている、空き家という存在が、浮いて認識される結果となったのではないか

そう考えれば自明となり
村の人々から忘れ去られた男の名が口から出た



「リンク…リンク…?」


難しい顔をじっと表札に向ける主人公を心配してか、コリンが彼女に近づいていたらしい
リンクと聞いて頭の横を手で押さえたコリンが
何度もその名前を呟いた




「コリン?…リンクが分かるの…?」



「分からない、よ…でも、何か…分からないけど…」



コリンは自分の記憶をフル回転で探っている様子だった
それを主人公は見下ろして何かを期待する


そこでべスが答えを導き出したような、スッキリした声を上げる




「リンクって、ウチのネコの名前よ!」



主人公は目を半開きにして少女を見下ろし一度脱力してから、しかし何かに気づく

次の瞬間には、ニンマリと口を上げた







「記憶はまだ残ってたのね」








何か良いことがあったのかと、子供たちと、それからムジュラも主人公に注目する




「ボンバーズ一同、重要任務を言い渡すよ」


「何だよ姉ちゃん、オレたちはリーダー命令じゃなきゃ聞かないぜ!」


「ボンバーズの司令官は問答無用で私だから、森のずっと奥で迷子の二人を連れてきて、リーダーはちゃんと隊員全員の安全を保証すること、いい?」



本格的らしい任務にタロの目が輝き、ラジャー、と敬礼の真似をして元気よく返事した
ムジュラはえー、と言いながらも、子供たちに袖を引っ張られてまた森に戻っていく

一方の主人公は村へと足を進めた








[*前] | [次#]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -