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「ナーンで皆居ないノさ」


木々の密度が小さくなってきた景色でムジュラが呟く
知らない間に天然の迷路を抜け出していたらしい彼は小さな村の入り口にいた
地面のすぐ上に浮いている足でしゃがみ
仲間が皆はぐれこの場に居ないことをグチグチ言っている


昼前の頃の空は青く、しかし微かに東の方が赤く染まっているのに
何となく気付くムジュラだが取り分け何をするでもない

ムジュラは立ち上がり、伸びをして欠伸もして
皆を探しに行くという考えなど最初から持たず、自分の暇潰しの為に村の方へと向かった

もし仲間が皆、平原の方へ森を抜けたら
自分が置いていかれるかもしれないことなと全く思っていない










「だ、誰か、止めてー!」


「ン?何ヲ?」



村に入った途端耳に入る叫びは少し涙が混じっていて
ムジュラが聞きつけてそちらに目をやれば
猛烈な勢いで走り、浅い川まで臆せずに越えこちらに向かってくる青い山羊と
殆ど泣きべそをかきながらそれを追いかける金髪な少年がいた




「ウワ、子供…」



ムジュラは嫌な顔を一つして
そのまま山羊を素通りさせ
村から出ていく一匹を見送った


少年は村の入り口で突っ立っているムジュラの近くまでくると
彼なりに頑張っていた遅い走りを止めて息を整えた



「また、逃がしちゃった…」


「別に逃シテおけば?」


「だってファドさんが、村長に怒られちゃう、から…」


少年は呼吸を整えて顔を上げる
そこで初めてムジュラの姿を見たのだが
奇妙で見慣れない装束に言葉をつまらせていた



「旅の人、ですか?」


「そうカモね、オマエ何?」


「僕は…コリン」


そっけなく愛想の無いムジュラに
恐い人という印象を受けたコリンは小さい声で名乗る
どうも今にも泣き出しそうな顔をするその子供にムジュラはますます嫌な顔をする



「泣くナよ、ボク子供が泣くト殺したくナルんだから」


当の自分のことなど棚に上げ、彼は
ますます物騒なことを言い始めてコリンが泣くのを助長しているようにも思えたが
ムジュラは片手を気だるげに上げて、その上に青色の小さな玉を出現させる
何が起こったのかとコリンが思わずそれに見入っている間に
玉は空気を吸い込む音を立てて膨らみ、大きな風船となった
仮面の絵柄がついたそれの端っこに、最後に糸を付け足して、ムジュラはコリンにそれを手渡した



「え?」


「子供の欲って小サクてつまんなくて嫌ーイ」


「あ、あの…ありがとう」



何を言っているのか分からないながらも
コリンは素直に、しかし呟く声で感謝し、ムジュラがそんなに悪い人では無いような気を起こした





「お、コリンじゃねぇかよ!」

「あら、ねぇその人誰?」

「風船…、ほ、欲しい」


元気な声を響かせて、一人、また一人、またまた一人と子供が集まってきて
子供ながらにコリンの持つ風船を欲しがり、そして奇妙な格好のムジュラを旅の奇術師か何かと思い始め、群がってきた

ますますムジュラは嫌な顔をした



























スタルキッドに連れられて着々と森を抜ける方向に進んでいるなど露知らず
主人公がそうして辿り着いた場所はフィローネの森の、精霊の泉




「泉って…スタルキッド、あんた!」


スタルキッドが案内した場所を目にして主人公が小鬼に怒気を投げつける
しかし、スタルキッドは、キキキ、と笑いを残してさっさと何処ぞへ消えてしまった

ただ何にも考えずに彼についていったことを主人公は後悔した
きっと光の精霊が、あの小鬼を使って自分を連れてこさせたのだと直感して
さらにまた神だ何だと言われることになると予想して、色々と腹を立てているのだ





《事態は、深刻です》



眩く、目を潰してしまいそうな光を放ち
大猿の姿を形成した精霊が自棄に深刻そうにそんなことを言う

主人公は面倒を予期して、しかし何か諦めたように泉の側に座り込み大人しく
精霊フィローネの言葉を聴く体勢を整えた



「深刻なのはこっちも同じよ、言わせてもらうけど、勇者リンクはもう居ないんだって」


《そうです、しかし聖三角の御力が消え去るなど有り得ない》


「どーして有り得ないって言い切っちゃうかな…別にまだ私だって諦めてないけど」


《事態は深刻です…御急ぎください》


「何が深刻なのよ」


フィローネは強い光を生み続ける球を抱える手を片方、主人公の右手を指すのに使った
つられて見れば、そこには黒色の逆三角形が浮かび上がるのが久々に見えて
ただその上辺に、鈍く光放つ黄色い三角が足されて刻まれてあるのが新しい要素だった



「なっ、これ!」


《トライフォースは、還ろうとしています…御急ぎください、この地が滅ぶ前に》


「ちょっとフィローネこら!言い逃げ禁止!!」



いくら主人公が口だけで禁止と取り決めても
精霊フィローネはまた一層強い光を起こして姿をくらましてしまった

いつもいつもこの手の神々に関係する者たちは重要なことをはっきり言わずに会話を打ち止めてしまう
何度そんなことをされても慣れることはなく、主人公は毎度のことながら解消されないで新たに増えた疑問の種を潰すのに苛々する


彼女の右手に、還ってきてしまったのは力のトライフォース
時を奪われるという残酷な空間に取り残された魔王を
神々というのはあっさり見限ってしまうらしい





「これはマジで、急がないと駄目みたい」








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