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「頑張れ勇者の影!」


「っ、貴様も戦え!!」


何処から湧いて出たのか
怪鳥は段々と仲間の数を増やして二人を襲ってくる

勇者の影が二、三匹倒したところで五、六匹の怪鳥が参戦するので全く切りがない
ただでさえ倒しにくい空中の敵とあっては苦戦を強いられる

こんな時こそ仲間の存在がありがく思われるのだが
弓矢という有効的な武器を持っているにもかかわらず主人公は攻撃をしなかった
勇者の影の背後でしっかりと鎖を握り締めながら敵の攻撃を避けていたのだ




「無理、私、戦い方とか分からないもの」


「……ふざけてるのか?」
「わっ、危ない!前!」



容赦無く次々と襲い来る敵の中では会話もろくに出来ない
というかしないのが普通であるが
なかなかこの二人には「普通」というのが通用しない


二匹の怪鳥を一緒に薙ぎ払い
背後から来る鳥の奇声に向けて剣を突き殴る
今度は横から来た敵を思いっきり蹴り上げ
復活してきた奴の攻撃を下に避けて何匹か相討ちにさせる

勇者の影の無駄の無い動きを見て
こんなのを相手に戦ったのかと自分を褒めながらも主人公は傍観を決め続けた



「こいつら、切りが無いぞ…」


「私もそう思った、逃げた方がいいみたい」


やっと戦い疲れたらしい勇者の影が弱音を吐いたところで
主人公が最初からそうすればよかったことを今更に提案してきたので
勇者の影はがっくりと項垂れた

しかしそんな暇もなく
急に主人公が鎖を引っ張り走り始めたので
勇者の影は呼吸困難ついでに蛙が潰されたような鳴き声をあげた



「ぐ、るし…ぃ!」


「うぇ、追ってくるよ!!」


何とか体勢を立て直して勇者の影が後ろを見ると先程の怪鳥の群れが黒い塊のようになって追ってくる

魔王が封印されて平和が訪れた筈のハイラル平原でこんな光景が見られるのは異常な事態なのだが
二人にはそんなことを考える余裕もなかった







「ちょ、待って…っ、つらぃ」


見苦しい程に呼吸を乱れさせながら
先を走る勇者の影を呼び止める


「貴様、もっと速く走れないのか?」


勇者の影は全く平然としていたが別に彼の体力が人並みはずれているのではなく(実際には人並み外れた体力なのだが)
主人公がありえないくらい体力が無いために
未だ200メートルも走っていないのに苦しそうにしているだけなのだった

そうこうしている間にも怪鳥の群れはまた距離を縮めて追い付いてくる

勇者の影も主人公と鎖で繋がれていては速く走ることは出来ない






「本当に貴様、面倒な…女だなっ」


「ぇ、!ひゃ、何!?」


勇者の影はぜぇぜぇ言ってとうとう立ち止まってしまった彼女に歩み寄り

その体を肩に担いで走りだした








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