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「主人公、ガ…何?」



「主人公様が、神と、…聞こえましたが」



ムジュラとクレが顔を見合わせた
勇者の影は苦い顔をして、何も考えたくなくなる

そうして三人の反応が遅れてしまった




「のわぁーっ!!」


余力振り絞り立ち上がったカノンドロフが主人公の体を引き寄せ
腕で首を絞めるように拘束してしまう



「主人公!!」


「ボクも主人公抱キたい!」


「抱き締めたいと言いなさいよせめて!!」


「動くな貴様ら、この小娘の首をへし折るのに大した力は要らんのだ」



ガノンドロフの要求は飲まざるを得なかった
魔王が主人公を支える腕に力を込めれば簡単に、主人公は苦痛に顔を歪めて呻いた
クレも下手に動き出せずに大人しく動かないことに従っている



「主人公を、離せ」


勇者の影が赤々と目の色を燃やし、ガノンドロフの、同じ赤目を睨み付ける
しかしそれがまかり通るわけもなく、男は豪快に笑うばかり






「そうして欲しければ、聖地への扉を開け、先ほどしていたように、台座に剣を納めるのだ」


「駄目!絶対駄目!従わないで!!」


主人公が目を瞑り涙を滲ませながらももがく
ムジュラがさっさとマスターソードを台座に戻そうとしたのを改めてどうするべきか首を傾げた



「ならば貴様が死ぬか?」


「うぎぎ…っ!!そ、それも嫌、どーにか、助け、て!!」



皆判断しかねて狼狽した

普段の主人公ならば何よりも自分の身の安全は確保しておくのだろうが今回は何が何でも、もう一方も嫌がっている
聖地への扉が、過去の扉で、同時に主人公の記憶なのだと言うのを聞いてしまえば
詳しくは分からないが、自身の記憶を他人に、しかもガノンドロフに覗かれてしまうなど断じてあって欲しくなかった
加えてこの男が聖地に行って何も悪行を働かない筈がないのだ




そんな彼女の考えも他所に勇者の影がムジュラから剣を奪い取り
台座に突き刺す




「貴様は…っ、聖地にでも何処にでも行っていろ!」



「ばッ、勇者の影!!」



主人公を傷付けてしまうくらいならば
ガノンドロフが聖地に侵入し、その後世界がどうなろうとどうでもいい

彼にとって主人公の身の安全に勝る価値では無かった



ガノンドロフはニヤリと口を曲げ
扉の出現位置に近づいていく
そこに灰色の光が出現すると、もはや人質は必要ないと、主人公の体を放り投げた

それをクレが受け止めるが、主人公はそんなことよりもガノンドロフの行動を止めたかった







「止めて!!」






最早遅い

光が扉の形に収束する












だが、最早



遅かった

















「な、に!!?」











光は灰色だった

それは扉にはならずに
何よりも無の色で、弾けるように発散する

周囲の、苔を被った神殿の瓦礫も、
蔓や根が這う地も、広がってくる灰色の光によってその色に染まった

間近にいたガノンドロフが光から逃げるため走り出す
しかし迫り来る灰色の境界が通過すると
魔王の時が奪われ切迫の表情を刻んだまま、石像のように固まってしまった






「これはヤバいでしょー!!!」




未だ広がり来る時間を奪う光に主人公が焦り
こ、と言った時点でもう走り出していた

勇者の影も訳が分からず、マスターソードを再び抜いてどうにかならないかと思ったが
何故か今回は、剣が台座を離れようとしないでビクともしなかった




「馬鹿、勇者の影!逃げるよ!!」



聖域を抜ける方向に走る主人公の声に勇者の影も、傍に惚けて立つムジュラの頭を小突いて走る
クレは当然の如く勇者の影よりも先に主人公の背後についていた



しかし迫る灰色の速さに、主人公の足が逃げ切れるわけがなかった

四人の中で一番に失速した主人公が荒い息で叫んだ




「勇者の影おぶって!!」


「そんな余裕は無い、自分で走れ!」


「主人公様、お運びしましょうか」


「クレはシレッと姫抱っことかしそうだから嫌!!」


「ネぇじゃあボクは?」


「規格外!!」




その数秒のやり取りで二人の男が落ち込んだなど露知らず主人公は走り

草の緑も樹幹の茶も、隙間を縫い吹く風と薫りさえも
灰色の世界に呑まれた一切は彼らの賑やかを無視し停止していく


森の一角が時間の流れから取り残された










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