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森に入り無作為に歩き迷った末に三人は偶然的にそこに辿り着く
深い森を越えて現れる
白い木漏れ日がいくつも差し込む森
そこは森の聖域と呼ばれる


荘厳な空気が漂う場所だった
澄みに澄み渡ったそれが肌に痛い



「綺麗な場所…」


「はい」


「そォ?ボクここ嫌い」


何がそんなに気に入らないのか
ムジュラは森の聖域の雰囲気に対してイーと口を横に広げて嫌悪の顔をし
次いで汚らしく唾を吐き出して主人公の気分を台無しにしてくれた




「奥のあれが…マスターソードって奴かな…」


主人公は最奥の台座に安置されている剣の方まで近づくのに階段を上っていく
話には色々と聞いていた、人の数だけでたらめな噂話も多い勇者の武器がそこにある
本物か偽物かどうかは残念ながら誰にも判断できない
ただ主人公がゼルダから以前に聞いた話では
マスターソードを台座に収めるときに過去へと繋がる扉が出現するらしい








「触れても大丈夫なのでしょうか…」


「触るくらいなら、何も無いと思うけど」



そう言って主人公は濃紺の柄に右手をのばして触れる
何も変化は無い
それからギュッと、しっかり握りなおす
しかしそこからは普通ではない

剣は選ばれた者にしか抜くことは出来ない











の、だが











「あ、抜けた」


「…」


「えーナンデ?主人公、勇者?」



近くの大木の幹を石で傷つけ、バーカ、と彫っていたムジュラが彼女の元に駆け寄ってくる
クレは今一その重大性を理解していないので反応しないし
主人公は主人公で暢気に、あれーおかしいな、と二回ほど剣を素振りした
それは勇者の影の持つ黒剣と寸分の違い無い剣であると主人公は気づく



「え、私が勇者だったとか…かなり笑えないんだけど」



失笑しながら主人公は剣を一度台座に戻す
こんなに近くに捜し求めていた勇者がいたのだとしたら誰に文句を言っていいものかも分からない

マスターソードの刃先がしっかりと奥まで突き刺さる
すると台座とは反対側の遠くの方
時の神殿跡に立つ枠だけだったアーチの中に光が敷き詰められ、両開きの扉が現れるのが見えた




「うわ、あれが…過去の扉?」


「はい、姫の話によれば…過去と何らかの繋がりを持つ筈です」


「勇者の影がアノ中にいるノか?」


「そうとは限りませんが…」


「ボク一番のリぃー!!」



ムジュラはスイーと足に溜めた魔力で扉の方まですっ飛びそれの正面に一番で辿り着く
彼の子供のようなはしゃぎっぷりに主人公は呆れつつ追いかける
クレは未だマスターソードに気を取られて台座を眺めていた




「コレ開けてイィ?」


「ちょっと、そーいうのはまず心の準備を整えてから…―」



誰も触れていない扉であった筈だったのだが
それは何の前触れも無く開け放たれた
突如開いた扉の角が真正面に立つムジュラの鼻に盛大にぶつかり、悲痛な声を上げてムジュラは倒れ鼻を押さえて悶え始めた

扉から転がり出てきた黒い影がさらにムジュラに躓き体勢を崩した




「わ、勇者の影!!!」


「げ、勇者の影!!サイアク!!オマエ最悪ダぁ!!!鼻いタいッ!!」


「主人公…!?」



ムジュラの上にのしかかった格好のまま、下敷きになって暴言を吐く男など眼中に入れずに
扉から飛び出してきた彼は、勇者の影は、主人公の姿を見て一瞬安堵した表情を見せる
しかし一変して険しい顔を作り直し
即座に立ち上がって開きっぱなしの過去の扉を力いっぱい閉めた




「何?何か居るの?」


「何も居ない!居ないと思え!!」


酷い汗を掻いて扉に体重をかけて押さえ込む勇者の影#が妙に必死に答えた
何だというのか、彼の置かれている状況を理解できない主人公は首を傾げる

しかし、一見扉だけのそれの、勇者の影が抑えているのとは反対側から、ドンッ、ドンッ、ととてつもない衝撃が与えられて扉が軋み
勇者の影は吹き飛ばされそうになりながら足に力を込めて耐えていた




「ちょ、何かやばくない!?」


「ムジュラ手伝え!!」


「それがヒトに物タノム態度かよォ、バーか」


「クレ!マスターソード抜いて!!!」


「…っ、はい」


こちらの事態に気づき駆けつけようと半ばまでやってきていたクレに主人公が叫ぶ
クレは困惑しながらも台座の方に戻り、殆ど何も考えずに台座からマスターソードを抜き取った
いとも簡単に台座を離れる剣にツッコミを入れる暇も無いほど皆慌てていた


すると扉は光放ち白む景色のように消えてなくなった

体重をかけて寄りかかっていた勇者の影は派手に転ぶが
起き上がるより前に自身の無事を確かめながら呼吸を整えていた




「な、何今の…何が追ってきてたの…」



「気のせいだ…全て気のせいだ…夢だ」



勇者の影は紅い目を半開きにして自分に何か言い聞かせている
あの勇者の影がこれほど汗をかくほど何か恐ろしいものに追い詰められていたのだろうか

何はともあれ勇者の影は何もかも無事に光の世界に帰ってくることが出来たようだった









「勇者の影、おかえり」







「…主人公、か…本当に」





「夢じゃないけど?」



いくらか落ち着いた様子の勇者の影は立ち上がる
主人公が改めて笑いかける前に
彼は主人公の体を正面から抱き締めた




「ウワァァーー!!勇者の影がセくはラに目覚めタァァ!!」


外野からムジュラが勇者の影の頭を叩きまくったが
今の勇者の影には、彼女を感じ取る以外の一切の感覚が遮断されているらしい



「勇者の影!!ちょ、何して…―!?」


主人公がもがき逃れようとするほどに勇者の影は背に回す腕に力を込めて
結果的により密着することとなる



「待っ、やめ…」





―― グイっ!




無理矢理の外部からの力に勇者の影の体が引き剥がされる

主人公も勇者の影も何が起こったのか分からない様子で目を丸くし
二人の間にズイッと青髪が割り込んだ






「主人公様が嫌がっておられます」



「何だ…貴様は」





勇者の影が額に青筋を立て
クレは無表情のまま睨みあう


修羅場はすぐそこだった







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