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「そんなの…、私に言っても…知らないよ」



だって自分は神じゃない
主人公は頑なにそう信じ込んだ、否、言い聞かせた

大妖精は俯かせた顔を少しだけ上げる
主人公の言葉に何を感じたのか、もう泣き声を押し込めている様子は無い
既に長い時間を遡った時から、大妖精は諦めることに何度も、直面し、慣れてしまったのかもしれない




「そうかもしれません…ですが、私には貴方が何も罪無き者と思うことはできない」


「…だからそんなこと…―」


「どうかせめて…心に留め置いてください、全てを知ったときにまだ慈悲があるなら、私の悲しみを」


「だったら全部教えてくれたらいいのに」



その愚痴には大妖精は首を振る
多くを語ることは出来ないとそれは言う




「もう私達に用は済んだでしょ、外に出してよ…出来れば南の森辺りまで飛ばしてくれるとありがたいんだけど」


「南の森…そこに勇者はいないでしょう」


「森には別件で行くから…ていうか勇者が何処に居るか知ってるの?」


「いいえ…しかし彼は、神々に魅入られた人間、それを考えれば…あるいは道は示されるでしょう」



意味深な言葉にいい気分がしないながら主人公はそれを聞き留めて記憶する
勇者を探し求める過程でか、その先でか、きっと何かが待ち受けていると彼女は予想している
だが段々と、それに立ち向かうか、受け入れるかの覚悟が擦り減ってくる頃でもあった




「クレ、あと何か聞きたいことある?」


主人公は泉から抜け出し、すっかり水をしみ込ませてしまったブーツに嫌気が差しながらクレに尋ねる
クレは何か他にも聞きたいことがあったのだろうが、それを押し込める間を少し空けて、ありませんと答えた




「南の平原へ、貴方達を運びます…幸運を」


「思っても無いこと言って」



主人公とクレを包み込む様に光の筋が降ろされる
そうして二人は運ばれていった








例によってムジュラの仮面だけは取り残された


















「ネェ、今度は何ヲ奪うつもりサ」


「…貴方が調子を取り戻していないのは、最後の力を使い果たしたからです」



泉の前に転がる仮面が溜め息の音を発した
また何か訳の分からない言葉で説教されることを予感したのだ



「別ニ、オマエにちから取ラれてから、回復しタシ」


光の世界ではからっきし沸いてこなかった力は
影の世界でエレの欲を吸い取り戻されていた

しかしそれは違うと言う様に大妖精は首を振った



「あの世界は魔に満ちている、それに陰りに生きる者達の力は貴方のそれと同種のもの、一時的な回復に過ぎません」



恐らく力を使い果たしたのは、アクタの闇を吸い込んだ時のことだろうとムジュラは直感する
あればかりは自身の力だけに依存してしまったために、ムジュラの中の魔力は底をついてしまったらしい



「アッソ、だったラ早く返セよ」


「ええ、お返ししましょう」


「…だったらナンで力取ったンダ、オマエ」



大妖精は掌の上の空気に、紫の靄を出現させる
それを丁寧に球状に手で収めていき
吐息を吹きかけてムジュラの方に飛ばした




「貴方の仮面から『記憶』の気配がしました…破壊の為に力を使わなかった貴方なら、…神の御心を変えることができるかもしれない、と」


「神って…ナンのコト?」


知らなくてもいいことだと、大妖精は目を伏せた

紫の光が仮面に宿り溶け込む
仮面は試しに宙に浮いてみてウロウロし、人の姿になって手を上にかざしたり握ったりしてみた







「ナンか、知らないケドさ、オマエ、元気出せよ」




大妖精が彼を遠方へ送る為の光を出現させるより前に
ムジュラは自分の魔力を使ってさっさと姿を消し主人公とクレの待つ地に移動した

そんな無邪気がどんな効果を示したのかの結果は知られない
暗く存在を知られない地下深くの洞窟には誰も居なかったから



















森の入り口に臨んだ平原の真ん中
浮かない気分のまま主人公が立ち尽くし
その様子を少し気にかけながらもクレはしっかり姿勢正しく側に立っていた



「クレ…」


「はい」


「君は…神が嫌い?」



クレはそれに答えるのに戸惑う
主人公がどんな答えを求めているのか、想像できてしまったから



「自分の意思は、何も意味がありません」


「それはつまり、嫌いって感じ?」



「…そうかもしれません」




陰りに生きる者ならばきっと誰も
神が好きだなどと口にしない

それを知った上で主人公は彼に言わせてしまった

馬鹿みたいだ、と思い直し
クレに見られない角度で自身に嘲笑をした










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