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その処刑場が不安定な地盤の上に、柔な造りで立っていたのではない
主人公達がいた通路は一階でも地下でもなかったように思われる

だから彼らがずっと落下して果てない闇に抱き込まれているのはあり得ないことで
必然、主人公はこんな走馬灯のしつこく付きまとう落下を思い出す

数秒の落下の後にようやく見えてきた地面、とそれから見覚えのある泉

死を覚悟するほど視界にその地面が迫ってくる前に
ある一線を越えたところでふわりと暖かい空気に変わり
落下のスピードが格段に遅くなった





「大妖精の泉じゃん…!?」



主人公は頭上にしっかりムジュラの仮面がのっていることを確認してゆっくり地に足を着けた

次いでクレも難なく着地して
ギブアップとギブミーも少し離れた地下洞窟の端に落ちた


翡翠色に輝く泉が揺らめいている所から
靄がかった光が現れて段々と大妖精の姿に変わる

クレはその眩しい雰囲気に少し目を細めていた

そうして最初に洞窟に響いたのは冷たい声







「役に立たぬ『記憶』風情が…」





大妖精は、隅で今やっと起き上がったギブアップと未だ手足無く難儀しているギブミーの卑しい姿にそう言った
呟かれただけの声だったが、そこは小さな物音でも反響する洞窟故、誰もが聞き取る
妖精の女王に相応しくない、慈悲無き言葉に主人公は目を見張る





「ウグゥゥ…」


「神をお連れするように命じたというのに」


「ヴぅ、…ウゥ…」


ギブアップは酒ビンを振り回して何かを抗議している様子だった
見たところ彼には身に覚えがないようだったが
ギブミーの異常な欲しがり方に関してはどうやらこの大妖精が一枚噛んでいたらしいと主人公は見当をつける



「どういうこと?」


主人公が問うのに対して大妖精は一拍、彼女に視線を送るだけで、直ぐにまたギブド達に話を向けた


「暴走し、敗れ、醜き姿を私の前に見せるとは…」

「あんたが呼んだんじゃないの?大妖精」


恐らく主人公が砂漠の地割れに落ちたときも、先程落ちてきたときも
あの暗闇の穴は、大妖精の何かの力で空間を繋げられた道なのだろう
それならギブド達がここにやって来てしまった不可抗力を大妖精が責めるのはおかしいことだ

しかしまた大妖精は、エメラルド色の髪をかきあげながら、さっぱり主人公の質問を無視した




「ウグゥ、ゥぅ…」


「生き、さ迷う事に疲れたのならば…もう消えなさい」


「ちょ、…!!」



大妖精が片手を彼らの方に上げる
叩き払うような手の動きをすると
ギブドの彼らは、細く痩けた身体の内側から
ただただ小さな音を立てるだけで破裂し、消された


主人公は胸くそ悪い現場を見せられて、衝動に従い泉の中に立つ女の姿の妖精に詰め寄っていく
バシャバシャと浅い水を蹴り行く主人公に着いていき側に控えたいと思うクレだったが
光放つ泉に足を突っ込むのにはかなり勇気が要って
泉の渕としばらく睨みあった



「あんた、何なの?」


主人公が大妖精の間近に来て、あまり友好的とは言えない態度で三度目の問い掛けをした
そこで初めて大妖精は主人公に気付いたかのように向き直り
更に別の話題で問い返してきた





「ソルは手に入りましたか?」


「は…?」


「ソルは何処です?」


「今こっちが質問してるの!!」



ソルと聞いてクレが少し反応して泉との睨み合いを止める

だが主人公の剣幕に諦めたように大妖精は目を伏せて
その場に腰を下ろした





「先程は、彼らに無礼な真似をさせてすみません…」


「やっぱりあんたが何かしたの?」


「あのギブドの一方に、貴方を此処に案内するように、暗示をかけました」


「それでギブミーがあんな暴走してたの…でもだからって、何あの仕打ちは」


「陰りから連れ来られた『記憶』…彼らは消えることを望んでいます、現世に迷い在り続けることに絶望しているのです」



主人公はそれを聞いても素直に納得しなかった
すると大妖精は冷酷な色の瞳で彼女を見上げた




「何故あの屍に情を持つのですか?貴方ともあろう方が」


まただ、と主人公は半ばうんざりした気持ちでそれを聞く
目の前の大妖精もまた、主人公をあたかも神であるようにして話す

最初に会った時にはそんな素振りは見せなかったというのに
あの時は他の仲間がいる場所で、主人公に不利になるようなことを言うのを避けていたのだろうが
現在はそんな余裕が無いのか、大妖精は何かを焦り、待ちきれない様子でソルのことを問いただした






「ソルは、私の光は何処です…早くこちらへ」

「ソルは無い…持ってきて無いし、影の世界でも砕けたから」

「砕けた…?…そんな戯言は耳にしたくありません」

「本当だって!大変だったのよ、こっちは」


主人公が影の世界での苦労を苛立ちながら思い出している目の前で
そんなことには最早聞く耳も持たずに大妖精は両手で自身の顔を覆った
無慈悲な、愚かな、と泣きすすりを始めて泉を波立たせたのだ



「何処まで私を苦しめるというのです…!?」

「なっ、別に、…誰も大妖精に嫌がらせしたとかじゃないし、そんな被害者ぶらないでよ…」


「一つ、よろしいですか?」


収拾のつかない会話にクレが、後ろの泉の境から声を挟んだ
ソルの話題を前にしてただただ黙っていることに我慢がならなかったのか
主人公は彼に喋る間を与えて促した



「ソルが、貴女の光である、という言葉の意味を教えていただけますか」

「あ、そーいえば私もそれ、気になった」



自棄に声が響く洞窟内に疑問が揃う
大妖精は主人公に向けた恨めし気な視線を泉の底の方に向けて
静かに言葉を始めた










「私はかつて…光の精霊でした…ソルは、光の源…精霊である証です」


「光の精霊って…」



主人公はハイラル各地に点在する泉の主、光の精霊の眩い姿を思い浮かべる
確かに彼らは皆、何か光を放つ球を携えていたのに気づく





「それを奪われ、私は、この枯れた地に…縛られて…っ、私は…!」



誰に奪われたか
そんな答えは、先ほどまでの大妖精の、突き刺す視線から知れていた

つまり神が、自身が、堕ちた精霊を生んでしまったのだと
主人公は表情を固くした









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