「イェエーイ!!」
「……」
「……」
「煩いゾこいツ…」
あのムジュラにまで煩いと言われた声は
それにすらやたらとテンションを上げて再び叫んだ
それに反比例してますます主人公とクレは口を閉じて声の、主と言って良いのかも疑わしい声の主を見下ろしていた
「これ、何だと思う、…クレ」
「自分には……手、に…見えますが」
石造りの通路の床にも
厚く砂に被われた箇所がいくらかある
その砂の床から、血色の悪い、大きな手を支える腕が生えていた
手はユラユラと忙しなく揺れ続け
主人公達を手招きしているようだった
クレが、手に見える、と言うとその血色の悪い手は親指を立ててまた一つ叫んだ
「イェエーイ!!カミくれぇー!!」
「え、…今何て言った?彼何て言った?」
「紙が欲しいと、聞こえましたが…」
「カミくれよー!!」
「コレじゃナイの…欲シガリのギブドっテ」
主人公は半ばそのことには気付いていた
だがそれを認めたくない頭が自動的に思考回路を停止させるのでわざとらしくクレに質問を続けていたのだ
誰だってこんな怪しい手だけの奴に関わりたくないのだから
「いやいや、ギブドじゃないってコレ…だって包帯無いし、手だし、ギブドがこんなに流暢に喋るわけないし」
「この方がギブドなら、自分にも言葉が通じているはずがありません」
クレの言い分に主人公はもの凄い勢いで頷いた
現在は誰もギブドのお面を被っていないのだ
それでも呻き声ではなく言葉が通じるということはこの手はギブドではないはず
「でも超欲シガってるジャン」
「一つお尋ねしますが、貴方はギブミー様ではありませんか?」
「こらぁークレ!!関わっちゃ駄目!!」
「イェエーイ!!オレがギブミー、イェエーイ!!!」
主人公の現実逃避を知りもせずクレが手に聞いてしまった
反射的に主人公#は、手の前に跪くクレの首の裏に膝蹴りをかまして
さっさと彼の襟元をひっ掴みギブミーだという手から距離を取った
「今どうやって知らないふりして過ぎようか必死に考えてたのにぃぃー!!」
「申し訳ありません申し訳ありません!!」
主人公はクレを通路の壁に押し付けて彼の腹をドスドスと陰湿に殴りつける
クレは必死に主人公に謝罪を続けた
その間に仮面がギブミーの前に移動して人の姿に化けてしゃがみこんだ
「ギブアップ、って奴がオマエのこと探してたゾ」
「カミくれぇーぃ!」
「紙無イシ、髪は駄目ダよ」
同じことを続けてひたすら同じものを欲しがる手にムジュラは少しぐったりした声で断りを入れた
するとユラユラしていたギブミーは動きを止め
スッと人指し指だけを立てる
ムジュラがそれを追って振り返る
それが示すのは間違いなく
主人公の方だった
「神、くれ」
「ハ?」
「神、くれよぉぉーーう!!!」
ズシャァ、と砂が吹き上がりその一帯に舞い散る
反省会中だった主人公とクレもそれに気付きさっさと臨戦体勢を整えた
叫び声を上げながら砂の下から現れたのは
包帯が疎らにしか巻かれていない一体のギブド
しかしギブアップやら通常のギブドとは大きさが二回りほど違って巨大だった
「何?今度は何!?ムジュラ何したの!?」
「ボク、何も…してないもん…うぅー」
ムジュラはこんな面倒が起こるとは思いもよらず、微妙な責任が生じてしまったので逃げるように仮面の姿に戻り床に転がった
「よし、逃げよう!クレ!」
「…っはい」
てっきり戦闘が開始されて、漸くの名誉挽回のチャンスが到来したと思っていたクレは
何の迷いもない主人公からの逃走命令に反応が遅れた
その分も取り返そうとして走り出せば再びお叱りの声を受ける
「って私より速く逃げるなぁーー!!!」
勇者の影よりも凄い駿足を惜しみ無く発揮して
先に突っ走るクレを全力で主人公が追いかけ
更にその後を巨ギブドがやたらハイテンションに、通路の壁を破壊しながら追いかけた
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