AM | ナノ




処刑場に入り数分
埃っぽい建物の中を進む足音は二人分

クレが前を歩き主人公が後に続く
何が起こっても襲ってきてもすぐにクレの背後に隠れられるように
それからもう二度と彼に背中を突き飛ばされたりしないように
主人公がクレに前を歩かせていた



「クレのヤつ、ヨワ」


主人公の頭の上に乗る仮面が言っている通り
クレは何とか普通に歩いてはいたがまだドンヨリした空気を纏って立ち直っていなかった



「……申し訳ありません」

「ケヒャヒャっ」

「もーやめなさいムジュラ」

「ムー…」

「クレもいい加減にしてよ、私ここでは君だけが頼りなんだから」

主人公が溜め息を半ばに吐いたところで
クレが主人公を呼んで振り返った


「主人公様」

「う、え、何?」

「自分は、必ず主人公様のご期待に応えてみせます」


立ち止まって急に何を言い出すのかと思えば
心なしかクレの無表情がキリッとして見えるので主人公は数秒ポカンとした



「えーと…もしかして、何か喜んでる?」

「はい」

「これからはもうちょっと…表情に出して」

「努力します」



本来は努力するような事では無い筈だが
クレはそう答えキレのある動きで一礼した
意外と単純ながら立ち直ったようである




「そーいえばクレ、勇者の影のこと助けられるかもしれないってのは…」

光の世界にやって来てからの彼の第一声を思い出して
主人公が詳細を聞こうとすれば
クレが殆ど間を置かずに答える
主人公からの信頼を手離すようなことが無いように色々と隙がないタイミングだった



「姫からの言伝てですが、過去への扉を求めれば記憶の世界と繋がる、との事です」

「過去への扉…なるほどねー」

「カコへの、扉って…何サ」

「多分森の聖域にあるんだと思う…次の目的地は取り敢えずそこかな」



オレンジ色の松明の灯が狭い通路を等間隔で照らす

今のところ何も恐ろしいもの達からの襲撃は無く
進路も決まり順調と言える
不気味な処刑場の雰囲気にも慣れてきた主人公は歩調を早める

しかし前方の暗闇から流れた寒い空気と生々しい足音、加えて苦しみを訴えるような呻き声を聞いて主人公の体がガチガチに固まった



ヒタ

ヒタ



「き、来たぁぁぁー!!」


「お下がりください」



クレが言い出すよりも早く主人公は彼の後ろに隠れ
力の上手く入らない手でクレの服を掴みあからさまに盾にした



「ウグゥゥぅ…」



松明の灯りが届く範囲に近付いてきた一体のギブドがその姿を見せた
一帯に広がる腐敗臭とあまり普通には見えない容姿
何より主人公が怯えきっている
それだけでも、クレが見たことの無いギブドを敵と判断するのには十分だった



クレは袖の中から素早く短剣を出し構える
数秒とかからない間に撃破して主人公の心の平穏を取り戻すつもりだったがしかし
クレの動きが躊躇いで止まる

それというのもギブドが距離を保ったまま立ち止まり
腐って肉の付いていない両腕を体の前でブンブン振って何か言いたがっていたからだ



「ヴぅぅ…」


「ヒィィィー!!」

「主人公様」

「は、ははっ、早くやっつけてぇぇー!」

「主人公様、あの方は何か意志疎通をはかっているようです」

「むりむりむむむりりりー!!」



意思の疎通をするのに表情も言葉も恐ろしく
直視出来ないのだから主人公には無理だった
ひたすらクレの服の端を握って首を拒絶に振り回している


ギブド落ち着けとでも言うように両手を前に突き出して目の前の空気を軽く叩く動作をした
次いで主人公の腰に提げてあるお面を指差して呻いた



「主人公様、そのお面を」


「え、なな、何…お面?」


主人公は定まらず震える手で先程拾ったお面を顔にはめてみる
視界が狭くなったが代わりに今まで聞こえなかった声が耳に届いた


「ソウソウ、ソレ着ケタラ話デキル」



「え…、誰この声」



かなりカタコトな声が聞こえてそれを辿ると
冴えない視界の、ギブドがいた位置からまたその声が発せられる
お面越しの視界が幸いして主人公の恐怖が和らいだ


「オレオレ」


「え、ギブドが喋った!!?」


「主人公様、如何なされました」


ムジュラの仮面を頭に乗せて更にお面を被っている賑やかな姿で怯えを無くし、何か驚嘆した主人公にクレが尋ねる



「ギブドと話ができるんだ、このお面凄い!最強!」

何か興奮した様子で自らギブドに近寄り会話を進める主人公に
クレは若干の心配を持ちながら彼女のすぐ後ろに立ち控えた
しかし彼には変わらずそのギブドが呻くのしか聞こえていない




「怖ガラセテスマン」


「てゆーか、どーして襲っても来ないで私と話そうとしたの?」

「オレ困ッテル、相棒トハグレテ探シテル」

「ふーん、つまり私達にも捜せと?」

「別ニ、忙シイナライイ」


相手の都合を心配するなんとも人間らしいギブドに主人公は可笑しさが込み上げて少し笑った


「別に…途中でその相棒くん見かけたら伝言くらいしてあげるよ」

「オ前、冴エテルナ…ヨロシク、タノム、…オレハぎぶあっぷ、相棒ハぎぶみーッテ言ウカラ」

「ギブアップがギブミーを探してる、ね…何か欲しがりなの?君の相棒は」

「ぎぶみーハ、超欲シガリ…会エバスグニ分カル」


ギブドのギブアップはそれからまたヒタヒタと冷たい足音を立てて歩いて行った
先程歩きながら呻いていたのは相棒に呼び掛けていたようで
彼はギブミーギブミーと言いながら去っていくのが主人公には聞こえた


「話せば中々…奧が深いわ、ギブドも」

「誰か、人を探すのですか?」

「欲しがりなギブド君を、まーついでだけど」

「何を欲しがる方なのでしょうか」


会えば分かると言われて特に考えなかったが
そうクレに問われて主人公は首を傾げた



「血トかじゃナイの?」




有りがちで且つ恐ろしいことをムジュラが口走り
恐怖をぶり返した主人公の悲鳴が暫くこだました

そしてそれからすぐ
彼らは超欲しがりな屍に遭遇することとなる






[*前] | [次#]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -