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「クレって、魔法使えるんじゃないの!?」

「使えますが」



主人公の悲痛な声にクレは無表情で答える

いざ陰りの祭壇から旅を再出発しようというときだったのだが
どうしても主人公の回りでは問題が起こる


クレはすっかり朝を迎えた世界を、特に珍しげにもせず
一通り下に広がる砂漠を見てからしっかりと主人公の目を見て続きを言った




「ここから下の地に移動するのは難しいです」

「難しいってことは…無理をすればできるのね?」

「訂正します…自分には出来ません」


なんとがっかりな事を言ってくれる
主人公としてはがっかりよりも絶望が多かったが

魔力に長けた影の一族の力を頼りにして
どうにか砂漠の処刑場内を通らず下へ降りられないかと思ったが
彼女のそんな考えはやはり甘過ぎたようだ



「下の地形では殆ど、影が見当たらないので、道を繋ぐことが出来ません」


「よく分からないけどそーなんだ…万能じゃないんだね、クレ」


「申し訳ありません」


「……よし、…処刑場、通って行こう」



確かに砂漠はその見晴らしの良さゆえに何かの物陰があまり無い
やはり世界が違えば能力も活かせなくなるものがあるらしい

主人公は何か腹を決めた様子でルートを宣言し
傷一つ無いムジュラの仮面を頭に乗せ
荷物をクレの手に押し付けて階段を降り始めた

クレはそれをどうするか数秒考えた結果
使いどころが未だ無い自身の魔法でもって大きな荷袋を小さく圧縮し手に持った
そして素早く主人公に着いていく




「ん…?何このお面」


祭壇を降りる階段の途中
主人公は白っぽいお面が落ちているのを見つける

何かと思ってそれを拾い上げようと屈んだ主人公だったが








「主人公様!」



― ドン



「ぎゃぁぁーっ!!」



背後からの、全く油断しきっていた背後からの衝撃があった
彼女の後ろにはクレがしっかり控えていることを分かっていた為の油断は裏切られる

クレが主人公の背中を押し出したのだ

屈んだ体勢から間一髪、主人公は階段を転がり落ちずに
何とかジャンプして下の足場に足を着けた




「なっ、なっ、!!?」


「未確認光源体発見、至急科学班出動を要請…」


「クレぇぇーっ!!!」


「――っ!!」


主人公を白いお面から庇うように立ち塞がったクレの後頭部に痛い拳が決められた

クレはしかし表情を変えずに
訳の分からない言葉をやめて主人公の方に振り返った


「馬鹿じゃないの?殺す気!?私殺す気!?」


「…いえ、そんなつもりは」


「未確認光源体って、別に光ってないし、科学班だっていないから!」


「も、申し訳ございませんでした…」



クレは頭を下げる、その動きが少しカクカクしているのに主人公は気付いた



「…ねー、顔に出してないけど…ひょっとしてかなり、怖がってる?」


「…っ、そんなことはありません」



頭を上げないクレの肩が少し反応したのも主人公は見逃さなかった

急に知らない世界に来て平然でいられるわけがないのだが
クレの変わらない表情と振る舞いが自棄に堂々としていたので気づかなかった

影の民の彼にしてみたらそこら中が光だらけに見えるのだろう



「ふーん」


「……」


「ちなみに私のパンチは痛かった?」


「はい、…とても」



深々と頭を下げたままの彼を
主人公が少し探るような目で見下ろす

痛みくらい顔に出してほしいものだ
どうやらまた人一倍強がりな男が味方になってしまったようだ





主人公は気を取り直して白いお面を持ち上げる
白い包帯のミイラ男の顔のお面だったが
リアリティに欠けたので主人公も怖くはなかった


「ムジュラ、これ何か分かる?」


主人公の頭上の仮面に見せるようにお面を掲げる
ムジュラは依然として、あー、とか、うーとか呻いていたが
答えられることにはちゃんと答えた


「ソレ、あぁー、…勇者の影が持ッテた…ナンカ、多分、お面屋サンの…うー」

「何?お面屋さんって」


「カブレばイイよ、…お面、ダシ…はぁー」


「それは分かるけどさ」


ひたすらダラダラしているムジュラにこれ以上の情報は期待できないのでそれくらいにする
何かは分からないが勇者の影が持っていたと言うなら害は無い筈だ

腰のベルトにお面を引っ掛けた主人公は
振り返り、階段を降りきったそこにある扉に向かう

いよいよ処刑場に入ろうというときに
何処からかどんより沈んだ空気が漂った




「クレ…何もんのすごく落ち込んでんのよ」



「まことに、申し訳、ございません…でした……」



階段の外側を囲む傷んだ石柱の側のかなり隅っこの方で
クレはこちらに背を向けて正座をし
頭が落ちるのではないかというほど項垂れて暗い影を背負っていた

言うまでもなくそんな彼の姿を目にしたのは主人公は初めてなので
なんと声をかけてやったら立ち直って通常になるのか分からない



「クレってかなり打たれ弱いみたい、ムジュラ、これはメモよ」


「ププっ、メモしためも!キヒヒ」



他人の不幸に関しては反応がいいムジュラが笑ったので
少し空気が明るくなった









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