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「取り敢えず、ハイラル城に行こうと思うんだけど、異議は無いよね?勇者の影」


再び男を引き摺るような勢いで歩みを始める主人公
手掛かりを失った現状を変えるために
聡明で知恵深いと評判のハイラルの王女を訪ねることを提案したのだ



「それよりこの首輪を外せ、名前のことは話しただろう」


再び首輪をいじり始めた勇者の影、名前はついさっき決まったのだが本人は不服らしい

首輪を外してやるという見え見えの主人公の嘘を真に受けて未だに希望を捨てていなかったのだ


「ダメダメ、君は名前を教えてくれなかったじゃん」

「なっ、…だから名は無いと言っただろう」


「そんな事情知らないよ、『名前』を言ったら外す約束だったんだから」


「ぐっ……」


(あ、なんか落ち込んだ)

勇者の影はそれ以上何も言えず口籠もるしかなくなった
今まで世話になったことのない「名前」の重みがのしかかったように感じて
とぼとぼと黙って歩き続けた




「だからさ、お城に行くって言ってんだけど…どう?」


「……そうすればいいのではないか?」



勇者の影はもうどうにでもなってしまえと腹を括った
この女には適わないという気持ちが段々定着しつつあった



「いゃ、勇者の影が少しでもリンクの気配とか、匂いとか感じたらそっちを優先させるんだけど」



ふと勇者の影は前を歩く主人公の後ろ姿を見た
「待てよ」と、たった今思いついたことを整理してみる

何も首輪が外れなくても女が鎖を手放せば逃げ出せるのだ
自分には剣があるし
都合のいいことに女は背中を見せて完全に油断しきっている
また戦うことになってもずっと鎖を持ったまま俺の剣を防ぐのは無理に近い
もし出来たとしても隙を見て逃げられる



勇者の影は静かに黒剣を抜いた
段々と距離を縮めて剣を構えた


(先ずは矢立てを切り離すか…)


光の矢の威力は本当に脅威であることは体感済みだ
動きを止められては元も子も無いので
手始めに矢立てを遠くに離さなくては




あれこれと考えを巡らせていたが


「勇者の影?」


会話を途切れさせていた勇者の影を不思議に思った主人公が声を掛け
後ろを振り向こうと立ち止まった



(しまった!)

剣を振り上げた状態を見られては警戒されてせっかくの計画が崩れる
そう思ってさっさと剣を振り下ろそうとする前に


主人公が後ろを向いたのと
主人公の頭上に現われた怪鳥が彼女を切り裂こうとしているのを見たのはほぼ同じだった





「伏せろっ!!」


「え、ぅわ!?」


勇者の影は反応しきれない主人公の肩を自分の方に引き寄せて
大きな化け鳥の鋭い足爪を剣で食い止めた



「クソッ、間の悪い奴め」


怪鳥の攻撃を弾き返しながら
地面にへたり込む主人公を見て言った


奇襲をかけてやる筈だった相手を勢いでを助けてしまった自分にか
はたまた悪運の強い主人公にか

勇者の影は悪態をつき続けた







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