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誰にも求められなかった子供は
その昔、いつかの紫暗色の空の下、光とは異質とされる世界で
誰もが求める力を手に入れた








































「馬鹿なことに力使ってないで、早く元の仮面に戻りなさいよ」



主人公の言う馬鹿なことというのはつまり
エレを新たに宿主とし過度な力を貸し与えていることを指している

ムジュラさえそれを止めたなら
エレがミドナに歯向かうほどの力は無くなるし
次いでアクタを消すのに尽力してくれれば万事良好となるのだ

だが彼女の言うことこそ馬鹿げていると暗に示してムジュラはケラケラ笑い
それを無視した台詞を主人公にぶつけた




「ココの人間の欲はイイね…ボクの魔力と同じダから力が回復シテきた」


ムジュラはヒラリと体を回転させると同時に姿を消し
主人公のすぐ目の前に現れて見せる
驚きに足を退かせる彼女の、少年よりも高い肩に腕が回されて
主人公は身動きが取れなくなると共にズイッと上身を引き寄せられた





「これでボクが欲しくナッた?主人公、ボクの力が必要なンでしょ?」


「ムジュラ…あんたのそーゆう所、気に食わないんだってば!!」



やはり話し合いに応じる優しさや聞き分けの良さはムジュラには無く
怯んだ気を取り直し、主人公はクレから借りた短剣をでたらめに振り回した
だがどの刃も簡単にムジュラはかわす
それというのも刃に迷いがしっかりと現れている結果だった





「ホントは欲しいクセに、人間て素直ジャないネ」



あたかも彼女の深心を見透かしたような口振りに
主人公はキッと目付きを鋭くした




「自分は素直だって言うの!?」


先に仕掛けるのはやはり主人公だった
上に跳躍する普段の力を前進するのに使って床を蹴りだし
ムジュラに切っ先を向けて突っ込んでいく

だが何の躊躇いもなくムジュラは魔力を炎に変えて主人公に飛ばしてた



「キライだよ主人公なんて、キヒッ」


「っ、!」



主人公は向かってくる二、三の火球を体を捻り最小限の動きで避ける
だが炎はしつこく追尾した



「う、わ、やば!ネールの恵みぃー!!」


主人公は振り返り炎に向けて指をさす
だが彼女が呼び出したかった水の魔法はすっかり主人公の意思を無視して現れなかった


「ぎゃぁーー!!ネールの馬鹿ーっ!!」


逃げ場所に惑い最終的に床に伏せた主人公の
頭の上を掠めて炎もすぐそばの暗い床に当たった
その箇所がなんともジューシーな音を立てて溶けていくのを目の当たりにして主人公はパニックになる



「何てことすんの!殺す気か!?」

「オシオキ…ボクを欲しがらナイなら、死んじゃえ」

「な、何言ってんのよ!」




「だって主人公はボクを置いていっタ!」



まさか初っぱなから致死的な攻撃をされるとは思っていなかった為に理不尽を訴えたが
返ってきた言葉は少年に貼り付いた笑顔には全くもって不釣り合いなもの

彼はゲルド砂漠でのことは忘れていなかった
大妖精から力を奪われたムジュラをそのままに一人処刑場に乗り込んでいったことを
確かにあの時主人公は、力を失ったただの仮面を疎ましがり置き去りにしたのだ


ムジュラが再び飛ばしてきた、今度は紫の光や電気の塊を
必死に避け、時には短剣で切り落としたり打ち返したりするうちに主人公の息は例のごとく上がっていく


「ムジュラには勝てっこなイヨ」


主人公の矢立の中
あれから再び欠片にバラけてその中に収まっていた仮面が彼女に向かって呟いた
そんなことを言うのは戦う前にしてほしい、と突っ込むことも出来ないほど主人公は呼吸に余裕がなかったが
耳はそれを聞くのに集中した


「ムジュラは負ケナい、何でも出来ル、そうムジュラが願ッたンだ」


「へー…少なくとも、私には、そうは、見えない」



そう完全な存在があるのだとしても
ムジュラの言うことのどれも
少年の浮かべる不気味な笑顔にとらわれず聞くならば欠陥だらけにしか思えない


「ボクに勝てっこないヨ、主人公」



ムジュラが両手をかざすと一帯の空気が波打って見え始める
紫の波動が主人公の体を巻き込んでいくと足の先からあらゆる感覚が失われて動きがピタッと止められた


「うぎっ、動けな、っ!」


「欲しくなったデショ、ナンでも出来るんだボク」



「そうやって、すぐ、不貞腐れてっ……もー!!」



麻痺する波が腰辺りにまで上り詰めてきた時
意を決した主人公は短剣を自身の膝に突き刺して
痛みから感覚を無理矢理呼び覚ました

何処までも足掻こうとする主人公にムジュラの気が苛立った




「何ノ力も無いムジュラなんてイラないんダろ!!」



「要るわ馬鹿!!」






主人公は幼子の煩さを掻き消す大声で叫ぶ
次に、短剣を下に落とす甲高い音が二つ響いた
何事かと彼が状況を理解するより速く主人公が素早く目の前に詰め寄っていた
それで動きを鈍らせたムジュラを力強く腕に抱いた
胸に顔を押し付けられ
手足をばたつかせるのも押さえ込まれ
これ以上の言葉を詰まらせられた少年は
込み上げる思いを外に出す手段としてどうしても涙を流す他にはなかった





「一緒に来るって、あんたが決めたんだからね!」






そう泣きながら告げられたのはつい先日のようではたまた遠い日のようでもある
主人公はあの時のムジュラの言葉を深くまで刻まなかったことを悔やみ瞼を落として
今一度心に沈ませた








「もう置いていかないから、…ごめんムジュラ」





主人公の言いたかった言葉は
きっと伝わる







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