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二人は平原を北に進んでいた

一人は上機嫌でもないが
少し浮かれた様子で先頭を歩き
手に軽い金属の鎖を巻き付けて絶対に離しませんという感じ全開の人間の女、名は主人公

もう一人は自分の首を拘束する銀白色の首輪を引っ張ったり曲げたりして外そうとしながら
彼女の持つ鎖に引かれてもたもた歩く黒服の男、名は…―



「そういえば名前は?」



主人公が思い出したように振り返り
未だ外れない首輪と奮闘している男に問い掛けた

男は自分がこんな惨めな状態になった原因の主人公と
友好的に会話が出来る筈もなく
不気味な光を持つ紅の瞳でまた先程のように彼女を睨んだ
もちろん殺気も込めて



「この首輪を外せ」


「まぁ、これから一緒に旅していくわけだからさ、取り敢えず名前くらい知っておかなきゃでしょ」



「首輪を外せ!!」



男の言葉を無視して話し続ける主人公に更に声を荒げる男

彼女の持つ『勇者の記憶』を食べようと交戦しただけだった
男にとってはただの食事くらいのつもりだったのだが
思いも寄らず、女が光の矢なんて珍しい物を持っていたために返り討ちにあい
挙げ句には「一緒に旅をする」と一方的に決め付けられながら「理不尽に連れ回される」ことになっていたのだ

しかも気付いたらはめられていた首輪は
どうやら光の矢と似通った効果があるらしく
男が無闇に『黒い影』になることが出来ない仕組みになっていた為抜け出すことができないのだ



「んじゃあ、名前教えてくれたら外すよ」


「……本当か?」


「うん、まじで」



内心全くそんなつもりの無い主人公だったが
意外にもあっさりと男がその提案に食い付いてきたので笑顔で約束してみせた

なんだ案外馬鹿な奴だな、と内心笑っていると
男は立ち止まって目を伏せた






「俺に名は無い」





この場合両親を亡くした子供に無邪気にもその話題を振ってしまったような「あの人やっちまったよ」みたいな空気が流れるものだが

しかし主人公はあっさりと
そうですかと頷いて受け流した




「私は名は主人公…言っとくけどコレ、自分でつけた名前だから」



さも、いい名前でしょ、と言いたげに胸を張ると同時に
名前が無いのがどうした、という意味も付け足した


「『無いモノはでっちあげろ』てのが私のポリシーなの、名前が無いなら私が付けてあげるから」



言うや否や
主人公は男に詰め寄り彼の容姿を隅から隅まで観察し始めた

黒い服と揃った黒い帽子を頭から背中まで垂れ下げ
背には黒剣を収める黒い鞘が左手で抜きやすいように斜めに掛かっている

見れば見るほど益々黒さが分かる姿に
少し具合が悪いんじゃないかというくらいの青白い顔が際立ち
更には紅の目が映えている
灰色の長い前髪が時折目元を掠める





「よし、君は今から勇者の影ね」







「……何か嫌だ」


「えぇぇー!?何でよ!」



自分は名付けの天才だとばかりに自信満々に言い放ったのに
男があっさり切り捨てたので大声で不満を漏らす主人公


すっかり歩くことを止めてしまった二人だったが

一方で着々と彼らの旅が始まろうとしていた









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