AM | ナノ








「其の存在を信じ、道を知る者だけが辿り着く地だ」


「俺はどちらにも当てはまらないが?」



勇者の影は未だ鬼神の向かいに座り呆けた顔で
自分に足りない知識を少しでも埋めようと質問に努める
鬼神はどれも、数段上から見下ろす感覚で微笑みながら答えた



「主人公は其の道を知っていたのだ、故に魔王も主人公を狙った」



「ガノンドロフ…」



勇者の影は拳を作り胡座をかいた膝の上でギリッと握り締めた
現場には居合わせなかったが相当に彼女を痛め付けてくれたらしいことは分かっていた






「さて、私も御前に聞くべき事がある」



「…?」




鬼神は盃を持つ手に力を入れていた
力を込めるのに震える指
ミシミシと音を立てた赤い盃は次の瞬間には痛い音を立ててバラバラに砕かれた
何か様子がおかしいと微かに身構え始めた勇者の影は
鬼神の、遠目には無色にすら見える銀色の目が紅色に染まる様を見てしまった






「御前は、主人公の何か」



「何?」




「主人公とは如何様の仲かと尋ねているのだ」



勇者の影は考える
一体全体、鬼神は何が知りたいのかと
目を点にしてそれを繰り返し頭に書くだけで暫く経ったので
問いに答えるのに時間がかかり
鬼神の怒りが目に見えるほどにまで沸いてしまった

そもそも何故この男はこんなにもキレているのか





「主人公とは…仲間?…か?」



仲間、と口に出してみて勇者の影は首を捻る
どうも彼の中で、それでは納得できなかった
主人公が勇者の影をどう思っているのかは知る由もないが
少なくとも勇者の影が持ち合わせている感情はそれだけではない




「俺は主人公が好きだから、共に旅をしている」



言ってから勇者の影が後悔したのは
何で見ず知らずの神にそんなことを打ち明けなければならないのかと、後から小さくない恥ずかしさが襲ったのと
もう一つ、鬼神が立ち上がり尋常並々ならぬ殺気を勇者の影に向け始めたからだった







「身の程知らずが…」


「何だと…、そもそも貴様は主人公の何だ」



「口を慎め、愚か者」



勇者の影も立ち上がり瞬時に飛び退き間合いを広げながら左手に黒剣を握った

鬼神が髪を留める幾つかの簪の内、一つを抜き取ると
それは虹色に光を反射する曲刀へと大きさを変えて左手に収まった





「私は嫉妬深いのだ、知っていたか?」



「何を言って…―」



「ハイリア湖、砂漠の処刑場、影の世界、と…よくもあれ程ベタベタと、何の躊躇いも無く、罪悪も無く、主人公に触れてくれたな!!」



斬りかかり降り下ろされる大刀を受け止めてはいけないと直感して勇者の影はスレスレで避ける
しかし剣圧だけでもビリビリと痛みを残して勇者の影の喉元に届いていた




「な、そんなことで一々キレる奴があるか!?」


「黙れと言っている、御前は神の怒りに触れてしまったのだ」



黙れと言われてはもう口を開くのも憚るもので

勇者の影は心の中で呆れ返る
なんと理不尽な神もいたものだと

しかし荒ぶる神を相手に回すのは
そうそう暢気でいられるものではなかった







[*前] | [次#]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -