AM | ナノ







主人公にとっては未だ理解の外である妙な移動術「呼び影」で
サクッとミドナの元に連行されてしまった
しかも今回は本当の罪人として



「今、この世界は大変な事になっているんだ…正直ソルを破壊した犯人探しなんて二の次、いや三の次だ」


「あ、私もそう思う、大賛成」



緊迫した雰囲気が充満する、先日とは違う場所と間違えそうな謁見の間で
主人公の挙手と声色はやけに明るくあったが
痛い空気を払拭するほどの効果は無く
代わりにミドナが恐い顔を更に恐ろしくして主人公を見下ろした



「だがオマエが犯人なら、捕らえて有益なんだ…何故だか分かるか?」



静かな空間に響き渡る、芯のある声が空気を伝い主人公の肌を痺れさせる
彼女の嫌な予感はよく当たる、それは彼女自身が自負しているし
更に言うなら今日はそれが冴えに冴えている
だから主人公は思わず耳を塞ぎミドナの次の台詞を聞き入れたく無かったのだが
後ろ手を掴まれていた、背後について立つクレによって




「オマエの体を球体に捻じ曲げて、魔力で光を増幅させ、ソルの代わりに据えればいいからな」



「かかかかかっ、かか、か、か、勘弁してよ!!!!」



つい主人公の豊かな想像力がそれを思い描いてしまった
頭をブンブン大振りして拒絶しても
ニヤっと笑って、冗談だと言うようなミドナではなく
切れ長の眼が、本気で、主人公の光帯びる姿を眺めている



「私はやってない!」


「信じてやりたいがな、影の民はソルを破壊する力は無いんだ」



そんなことを言われてもやっていないものはやっていないし知らないし身に覚えがない
だがソルを破壊されたとかいう時刻に主人公は一人でいたのに加えて
何かしらの弁護をしてくれる仲間も今は居ない
展開が怪しい方向へ進むなか主人公はやっていないと言うしかなかった






「それに、光の者はソルの重要性を知らない…陰りに生きる一族の痛みもな」



「そ、そうかもしれないけどっ」




主人公の言葉も半ばにミドナは手振りで下がるように示す
それを確認したクレが主人公の手を拘束したまま一礼し
謁見の間から連れ出し始めた

流れ的に、場所を移し本当にソルの代替にするための準備に取りかかるものと予測した主人公は青ざめた顔でじたばた抵抗したが
何の影響もなく、エスコートでもされていくように丁寧にクレに連れ出されてしまった

扉が閉まり静けさが戻る












「所詮、光と影は相容れないのか…?」









ミドナの声はか細く言葉を紡いだ
誰に問うでもなく問いながら
それを肯定するような可能性を悲しく思っていた




















「ちょっ、と、待とうよ、クレくん!」



一先ず監禁しておくつもりだろうか
狭い個室の扉が並ぶ、一層暗い廊下まで歩かされてくると主人公も焦りが最高潮になる
どうにかソルの刑だけは逃れたいが、この世界の中で一番まともに話せそうだったミドナの信用を失ってしまった今
融通は利かないが話くらいは聞いてくれそうなクレの説得にかかった



「どうぞ、お入りください」


「いや、待って、てば!!私、アクタを消せるかもしれないんだよ」


一つの監房への扉を開きウェルカム態勢になっていたクレが、一瞬だけ、ピクリと反応したように主人公には見えた
何しろクレの顔は未だ妙な装具で隠されているのだ
その表情の動きが捉えづらく、どの話題が彼の意識を誘うのかが量りづらい



「…」


「消せるかも、てゆーか…消すから、いや寧ろ私にしか消せない」


「一族は長きに渡り、アクタを消滅させる術を見出せず、ソルによって退けることしかできませんでした」


「助かりたい為の出任せだと思ってるってこと?ふーん…?いーのかなー、本当だったら、クレくんの責任だよ」


「貴方は光の世界の人間。光の民は影に関与せず、関知せず、栄えていたはずです」



クレの口調は滑らかに流れていくが
言葉の内容はあまり穏やかではない心中が少し表れているようだった
無関係に生きてきた光の者からの助けなどには今更頼らないと
主人公はいくら声をあげても聞き入れられない状況の連続に
漸く光と影の間に深い溝を思い知らされた
そしてそれをどうにかしたいとも



扉の中へ、促され重い足取りを踏み出す
しかし暗い表情を作ったのは一瞬だけで
主人公は監房の中に入ると同時にクレの右腕を力一杯引っ張った


「!」


「どりゃ!!」


いつでも手を前に組み揃えていたそれが解かれ、袖から現れた青白い手の左が
主人公の顔面に向かって掌底を繰り出してくる
みっともなく叫びながら主人公はそれをしゃがむように避けて
続けて彼の膝裏に蹴りを入れようと試みるがあっさりとかわされた



「…」


「少し話を聞きたいんだけど」



攻撃を避け続けたはいいものの、監房の奥に知らず誘い込まれていたクレは
主人公がそのまま逃げるかと思いきや彼女は自らもその中に入り込んで扉を閉めた

ガチャリと、重い物が噛み合う音が鳴った





「影の一族のこと」


「何故」


「真実を知って、神に突き付けて、嫌がらせしたいから」



クレが態勢を立て直し、普段通りの直立姿勢をとろうともせず
少し身構えたまま動きを止めた
それは主人公の求める話をするべきか否かを迷っていたのではなく
単純に主人公の言っている意味の突拍子に理解が追いつけていないからだった







「先祖は遥かの古に、光の世界に生き、魔の力をその身に宿していた一族だったと聞きます」





クレが語り出す、丁寧な語尾の一語までも、暗記していくように主人公は耳を澄ます
監房の中はそれには最適で、閉じられて隔絶された部屋は他からの音の侵入も拒んでいた




「一族は当時の王家に仕え、王家も一族の魔力を重宝し、あらゆる面で力に頼っていたのですが、神々がその力を脅威としたのです」





またしても聞くことになった『神』という言葉に主人公は眼を見開いた




「王家は神を恐れ一族を切り離し、神に差し出しました」


「あれま…」


「神は力を陰りに封じ込めるため、一族は永劫陰りに生きることを強いられました。その一族の末裔が今この世界に生きる影の民です」



主人公の中に何かが引っかかる
そんな王家に関わる重大な事件を
シーカー族の隠れ里で育ってきた自身が知らないわけが無いのだが
うーん、と首を捻る主人公の思考に、クレが一言添えて助けた




「影の如く、王家に仕えていた一族ですから、そちらの世界では知られていないでしょう」


「影の、、一族…」




























「その話、…私、知ってる」


ゼルダから聞いたのではなかった
影の世界に生きる一族の話は、ミドナと共に旅をした勇者と
ミドナに力を貸し与え心を共有していたゼルダくらいにしか伝わっていないだろう
だが誰に聞くでもなく主人公はその話に馴染み深いものを感じた


影の如く、王家に仕えていた一族の話ならば
誰よりも一番知り尽くしている自信が主人公にはあった

それがたった今繋がれた





「シーカー族?」



クレは、甲の下でもしっかりと主人公に視線を固定していた
聞き返してきた彼の声に主人公は頷く



「代々、王家の影として仕えていた一族なんだけど…一度王家に裏切られたっていう話は伝承に残ってる」

「光の世界に、その一族が…?」

「うん、…シーカー族の末裔はもう数えるほどしかいないから、存在を知られていないくらいなんだけど…ずっとハイラルの史実を語り継いでる、語られない歴史を守っているんだ、ってインパルさんが言ってた」


主人公自身、シーカー族の血を引くわけではないのだが
忘れられた里で育った為にそのような知識を蓄えていた



「もしいくらか取りこぼしがあって、影に送られないで光の世界に残った一族がいたなら…」

それがシーカー族として光の世に存在しているのではないか
二人はほぼ同時にそう考える
まぁ、どれも推測の域を逸しないものだと主人公が笑い飛ばそうとした時だった





「ずっと捜して、いてくれたのでしょうか…」



「…え?」



「陰りに落ちた、この一族を…光の世界でも、忘れず」




「いや、でも確証は無いよ?ルーツが同じとは……可能性はあるけど」



多少言葉を詰まらせながらクレが言うのを、申し訳なさそうに主人公が水を差す
だがクレは横に首を振り、彼女の目の前まで歩み寄ると急にそこに膝を着き頭を低くしだした






「…信じます」




「え」



「信じます、貴方を」






クレは甲を取り外す
そこで初めて晒された顔に主人公は見覚えがあり




「ええぇーーーー!!?」




とりあえず叫んだ

彼の顔は影国騎士団長のそれと変わらないつくりで主人公を見上げていた








[*前] | [次#]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -