AM | ナノ






歩く先の足元にあった闇は
主人公の光る体から逃げて這い回り自動的に道を開けていく

辺りは黒い闇の海
本来ならば影の宮殿の麓で街が栄えている低地たったが
今はまっ平らに闇が敷き詰められている

たまに通り過ぎる景色に
建物の残骸が、アクタの黒さに色を侵食されながら溶けていく様が見られる

元々のこの場の情景を知らない主人公も
息を飲み込んで漂う寂しさを肌にしみさせた





「これ…私がやったことにならないよね」


命からがらな心地でエレから逃げてきた主人公だったが
何の弁解もしないまま逃げていては勝手にソル壊しの罪を着せられたままになりかねない
しかも最悪の重罪人だ
だが考えていても仕方のないことがあるのを彼女は知っていた
今はそうでない事を願うばかりで
気になるのはこの惨状をつくりあげたアクタのことだった



「…何でこんな…アクタなんて存在するんだろ」



時間に依らず不変だった黄昏の空は
少しずつ、夜を迎える準備を始めたように紫暗に染まりつつある
それはこの世界の寿命でも示すようで
主人公はなるべく上を見ないように努めていた






「知りたい?…アクタのこと」



歩みを止めていた主人公の前方で闇の海から塊が上りたち少女の形に変形していく
それは先日アクタの褪せ森で出会ったサリアの姿だった
主人公はそんな登場に戸惑わず、また躊躇いもせずに二つ返事で知りたいと答えた










「アクタの、記憶はね…光の世界に溢れ過ぎた皆の魂なんだよ」


「魂…、というと、死んだ人達の?」


サリアは少し間を置いて頷いたが、大まかな意味としては肯定しているだけのものだった



「死んだんじゃねえゴロ、その世界ごと消されたゴロ」



続いて言葉を繋いだのは主人公の背後に出現した、記憶のゴロン族の男
更にすぐそばの闇からゾーラ族と、ゲルド族の女も現れて
主人公は視線をあちこちに忙しなく動かした



「神は世界を、何度も創り変えておるゾラ…いたずらに消された命は皆、誰にも知られずに忘れられ行くのみゾ」



「でもアタイらは、そんなことで…消えたく無かったのさ」



一人一人に名前を尋ねる暇もないほど彼らは語ることをやめなかった
溜め込んでいた言葉を漸く解放できたことに伴う焦りが、主人公の質問する隙を与えない




「だから世界に留まろうとしたの・・・せめて皆に、知って欲しかったから」


「それが何で、影の世界に・・・?」


「陰りに封じられたからじゃ、神によって・・・何でも『記憶』は『闇』によく馴染むとかで、ここから抜け出すことは難いゾラ」



「神・・・」




主人公は難しい顔をして呟いた
話を聞いた限りでは、その神はかなりありがたくない存在であることは確かだが
そんな話を聞くのは、影の世界の、こんな辺境に来なければ不可能な程で
本来は語られぬはずの事実に直面して主人公は心中、決して静かでは無かった




「ネールが、此処に来させたくない感じだったのは、このことだったのね」



顎に添えて考えていた仕草を改め、主人公はルピー袋を下げて影になっているベルトの裏から小さな記帳を取り出し
自身の利き手の人差し指の先を傷付け搾り出した血で空白のページに何事かを書き込んでいく
周囲の記憶達は不思議そうに主人公を眺める
それが不意に顔を上げて二言、三言質問を始めた



「ちなみに、この、アクタに飲み込まれた街と人は…元通りにならないの?」


「ならねぇゴロ、闇に食われた影は手遅れゴロ」


「アタイらも好きでやったんじゃないんだよ」


「好きでやられたらたまんないでしょ…」











「ここに居られましたか」




冷たい声がすぐ側に響いて主人公の背筋が凍る
表情が装甲で隠された男が、それこそ何処から現れたのかも知らないうちに
背後どころか目の前に姿を見せていた



「クレ!?」



エレから逃げてアクタの海に来たのは、影の世界の者ならばアクタに近寄らないだろうと推測してのことだった
それがあっさり見つけられて主人公は、半ば諦めた様に息を吐いた







[*前] | [次#]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -