AM | ナノ







翌日、陰りの世界に衝撃が走る事件が起こる

それは数年前の、ザントの反逆による王の失脚よりも衝撃的かは量りかねる
だがその騒動の後、いくらか平穏を取り戻してきた影の民が受け止めるにはあまりに残酷な事実

宮殿前の広場、現場には騒ぎを聞きつけさらに騒ぎ立てる野次馬がごった返す
その全員はもちろんのこと、この世界に住む一族の者達であり
漏れなくそれを知った彼らは絶望と混乱を叫ぶ



「退け、退いてろ!テメェら」


「エレさん…、やばいですよ」



民衆を掻き分け、遅く広場に駆けつけたエレがその中央に辿り着くと
既に現場の警備にあたっていたドリューが彼を呼びつける
いつもの、のびりした雰囲気が消え薄く汗をかいている部下の様子に、一層エレの焦りが増していった

中央には世界の光を担うソルが、普段から据えられている
今もその位置に変わりはないが





「マジで…砕けたってのか」





美しい球の形は、無残に砕けきっていた



「修復はできませんでした…、光が強すぎて」


砕けた欠片はそのどれもが常時の光よりも強く熱い輝きを放っている
球体であることでソルの光が影の民にも丁度良い明度で保たれていたのだろうか
ソルが破壊された前例など無い為に推測でしかないが、破壊された今ではそれが有害に働いている

ドリューが視線を送った先では、修復を試みた騎士団の治癒・補助部隊の者が
全身に現れた火傷のような傷に苦しみながら、他の者からの治癒の魔法を受けてる



「できねぇで済むかよ!万が一ソルが失われたら…」
















野次馬のずっとずっと外側では、未だに事態が掴めずに
広場の中央の方から伝わってくる不安に戸惑うだけの群衆が出来上がっていた
主人公はそこから、ピョンピョンと飛び跳ねていたが一向に情報が得られなかった


「何があったの…?何で集まってるのよ?」


「!?光る、人」


とうとうジャンプするのにも飽きが来て近くの影の民に話しかけたが
まず真っ先に主人公の存在に驚かれて、周囲の人々が今度は珍しい光の民を見ようと群がり始めてしまった



「ソルが!?」


「嘘でしょう?」


「この世界はどうなるの」


「ソルが砕けるなんて」



わらわらと注目されて戸惑う主人公を助けたのは、更に注目するべき内容だった
ようやく前方から伝わってきた事件の内容に主人公を珍しがることも忘れて人々がざわつき出す



「ソルが砕けた?」



影の民の動揺が、いまいち理解できないままに主人公は首を捻る
丁度そのとき、広場の中央の方から一段と眩い光が走りその場を痛い程の白に染め上げた

悲鳴と、野次馬の中心の方向から逃げて来る者が続出し
将棋倒しになりかけながら光に射されないように人々が走る

彼らは強い光が苦手なのだろうか、と主人公は目を細めて思ったが
込み合った群集がなくなるのは幸いだ、とばかりに影の者達の走る流れに逆らってそちらに向かった














「エレさ、…これッ、眩し…す」



「だったら俺の背後にでも隠れてろ!ボケ」



肌を焼くような光を突如放ったソルに最も近づいていた騎士団は
どうにか各々の魔力で障壁を作り出しながら避難したが
騎士団長はその場を離れようとはせず、となればなんとなく副長も逃げるわけにはいかない雰囲気になる
光を遮るバリアーを維持していることに限界を感じたドリューは素早くエレの背後の影に回りこんだ




「あ、エレと…ドリュー、だっけ?」



そんな危機的な状況に主人公がやってきて声を掛ける
この光を前に平然と立っているなんて馬鹿な、とエレは一瞬目を疑ったが
彼女が光の世界の者だと思い出して舌打ちをした



「テメェ、この光どうにかしろ!」


「いやいや無理だから!!てゆーか多分、これ……」



ソルが砕ける、という様子をこの目で見たわけでは無いが、主人公が聞いた話から考える限り
砕かれたソルは遠方まで届く強い光を放ち、それから…―








「放っておいても、そのうち光が消えていくと思う」







「そんな…っ」



「っく、消させて、たまるか!」



エレは両手をソルに向けてかざす
しかし彼が何かを施す間も無く



ソルの光は失われた











「う、そ・・・」



放心した声を出すドリューがその場に足を崩す


エレはすぐさま、暗く鈍っていく欠片に近寄り、それを拾い上げるが
最早、何も取り返すことは叶わなかった







[*前] | [次#]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -