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「よく来たな、黄昏の向こうから」


玉座に足を組んで腰掛ける影の世界の姫君は

セクシーだった



「(生足が綺麗だ…)荒っぽい歓迎どーも」


主人公は深くないお辞儀をして冗談めかした挨拶をする
その様子に、謁見の間に居合わせる姫の従者が囁き声で礼儀の無さを批判した


「何だ、若き騎士団長のことか?」

「クレくんのこともあるけどね」


ほの暗い謁見の間は壁や床に描かれる模様のラインがエメラルドに光を放ち
目に優しい明度を保っている
主人公が玉座の横に立ち控えているクレを指差して目を細めたのも
それに対して挑発し返すように姫が目を細めたのも
つまり眩しさによるものではなかった




「クククッ、…悪かった、連行なんて形で招待したらしいな」


「そんなに早く私に会いたかった、とか?」


「……この世界で『光』を野放しにするのは、危険なんだ」


どのような危険がついて回るのかは知らないが
郷に入っては郷に従うしかない
光っている主人公自身には影の彼らの恐怖を理解することもできないのだ


ミドナは太ももまで惜しみなく露にするように組んでいた足を解いて玉座から立ち上がる
その動作のどれも、女ながら目を惹く流れだった
男の心理を知る由もない主人公だが、これは男が見たらヤバいなーと密かに思っていた




「私は影の一族の長、ミドナ…オマエの名は?」



「私は主人公、よろしく」


主人公の名前を聞くとミドナは微かに顔を後ろに傾け
クレにだけ分かるように目配せをする



「皆、これからこの者と大事な話をする…暫く席を外せ」




ミドナが謁見の間の両脇の壁沿いにズラッと立ち並ぶ臣下の者達にそう告げると
軽い戸惑いを抱きながらも彼らはその列のまま謁見の間を去っていった
最後にクレが頭を下げて扉を閉めきった

ガコン、という重い音が
人口密度の小さくなった場所によく反響する







「もしかして、な…主人公ってのは本当の名か?」

何を根拠としてそう思ったのか知らないが
妙にミドナは呆れた顔で主人公に近づいていった


「うん、面倒くさいし…名前を死守しなきゃならないのはアクタの中だけなんじゃないの?」

「ああ確かに、アクタの中でなければ別に名を明かすことは命に関わらない」


名前は記憶として明確性を持ち、それがアクタの『記憶』の侵食を受ける原因なのは分かった
だがその領域を出てもなお名前を隠す必要性が感じられず、面倒臭い気分が大半の理由占めてしまったので主人公はいつも通りに自己紹介をした




「だけどな、名前を知られることはどうしても恐ろしく恥ずべきことと、この世界の者は感じてしまう」


「…」



「名前を明かすことは命を差し出すことに等しい、解るか?」



「いや、解らないわ」




主人公はミドナを前にして何故だか腰に手まであて
ドンと自信満々に言いきった

ミドナはつい何事かと顔を呆然とした表情で固まらせる



「私は恥ずかしくないし恐くもない、私は私の名前が好きだから、気にしないよ」


それに他人が聞いただけじゃどの名前が本物かなんてばれないし
そう付け足されて、それはまぁそうだが…とミドナも押され気味に眉を寄せた



「私の名前は主人公、よろしく、ミドナ」


二度目、主人公が名乗り、誇らしげに笑う
その目の優しさに、一方的な懐かしさを見出だしミドナも、気付けば笑んでいた






「改めて…オマエを歓迎しよう、主人公」














主人公はどうやって影の世界に来ることができたのか、から
アクタで勇者の影が消えてしまったことまでをミドナに伝えた
影の者達には危険なことなのかもしれないが
どうにかアクタでの捜索を要請できないかと考えていた

しかしミドナは少しからかうように弾んだ声で主人公を指差して、その必要は無いと答えた




「ソイツは無事だ」


「え、何で分かるの?エスパー?」


実際、陰りの中を自由に移動したり、魔法を操れたりと
普通では考えられないことをする影の民に、エスパーなんて言葉は冗談にはならないと主人公は後から気付いた






「だってソイツは言ったんだろ?溶けるなら、『オマエの記憶の中』がいい、と」








「え…、え?」



勇者の影が消えた直後は放心して深く考えていなかったことを
大胆な解釈で聞かされて
再び主人公は頭を白くした








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