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主人公は広大な平原のど真ん中に座り込んでいた
慎ましく正座するには余りにも似合わない
広々とした平原の景色が彼女の周囲に広がっている

主人公の目の前には黒服の男が座っていた
左肩に光の矢を刺した状態のまま
二人は互いの瞳の色でも観察するように睨み合っている




「つまり君は、昨夜のうちにトアル村の人々の記憶を奪ってしまった…と」



話を要約して確認をとってみるが
目の前の男は何も言わずに未だ主人公を睨む

敵意むき出しの視線だったが
瞳の紅色が綺麗だなぁと呑気に見つめ返す主人公には全くその効果がなかった

しばらくの沈黙が流れたが
「沈黙は肯定」だということを勝手に決め付けて主人公は話を進めた



「ってことはトアル村に行ってもリンクの手がかりは掴めないし、ましてやリンクは居なかった…てこと?」


「……」



これはもしかすると本当に
これ以上の話は教えてくれそうにないかもしれない
男がトアル村に行って人とはちょっと違った「暴食」を大方済ませてしまったという話は簡単に白状してくれたが
その他は現在の通りだんまり状態だ

主人公は溜め息をついて正座していた足を崩した
またしても勇者への手がかりを失い途方にくれた



男は主人公の気も知らず左肩が落ち着かない様子でいた
矢の埋まった部位から痺れが広がって左腕が完全に動かない
どうにかこの女から離れなければと打開策を探すが
探そうにも動くことは叶わないし
見つけたとしても見張られている手前で素早く実行することもできないだろう



「でさ…君はこれから何処に向かうの?また誰かの記憶を食べに行くわけ?」


やっと止んだかに見えた主人公の尋問が再始動して
男はうんざり顔で吐き捨てた


「貴様の知ったことでない」


男は顔を背けて平原の緑を見るようにした
このまま目の前の女に歯向かい続けてもどうしようもないだろうが
それでも少し望みがあった

日が暮れて一緒に矢の輝きが弱まれば
自力で抜け出せるかもしれない




「君は記憶の匂いを辿ってたって言ったよね?」


「あぁ、それがどうした」


「そうやって…全ての記憶を食べながら、旅を続けていけば…最後に行き着くところは『勇者』の元じゃない?」



男は主人公の仮説に驚いた
図星と言っても良いほどに的確な仮説だったからだ




「お、正解だった?」



主人公はニッコリと人懐こい笑みを向けた
男は茫然としてその表情に捉われた

そのせいで喉元に仕掛けられたものの重みに気付かなかったのだ





カチャ






「……は?」





金属が噛み合う音が聞こえて我に返った
音源を確かめようとするがどうやらそれは首周りにジャストフィットだったらしく
見ようにも見ることができない

しかし目の前の人物がいつの間にやら手に持っていた鎖が
自分の首までジャラリと伸びていたことでその正体がわかった



「首輪……だと?」


「そのとーり」



主人公は笑みを濃くしながら男の左肩の矢を抜き取る





「リンクを探すには君と一緒に行くのが近道らしいからね」



「一緒に行く」と言うより
「連れ回す」というような感じがして男の顔は引きつった

大変な女に捕まってしまったものだと
男は動かない身体を内心で暴れさせた







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