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「本日黒夕時、西の空に光を発見。影国騎士団、騎士団長エレ、並びに副団長、第一特攻部隊長ドリュー、両名はアクタ領域へ侵入し記憶と接触」



複数の人間が取り囲むように席についた広い会館で
官職の男がつらつらと話すことを
中央に立つエレがイライラしながら聞いている

傍聴席ではその様子を物珍しげに眺める主人公と、興味もないのか手遊びをしているドリューと、依然顔を甲で隠し何を見ているのか分からないクレが座っていた


「この内容に異存は無いか?」

「ありません」

「何故、何の報告もせず、暗枢院からの命令もなく行動をした?」


次々と別の方向から飛んでくる質問の声に
いちいち顔をそちらに向けることはせずにエレは真正面の柱に掛かる奇妙なシンボルを印した幕を見ながら答えていた


「光からの使者がアクタという危険領域へ到達したことが分かり…一刻の猶予も許されない事態と判断した為です。事実彼らは記憶からの襲撃を受けて…――





「エレって、普通に丁寧に喋れるんだ…」


主人公は感心したように小声を漏らし、ドリューはそうですねぇ、と欠伸をしながら答えた
長時間のこのやり取りにすっかり飽きて眠そうにしているドリューを
傍聴席最前列の手すりに寄り掛かりながら主人公は呆れ見た


「てゆーか、本来ならドリューもあっちで一緒に立ってなきゃいけないんじゃないの?」


ハイラルでは目にかかれない査問なんてものに興味がある主人公だったが
こんなことは日常茶飯事らしいドリューは答えずすっかり居眠りを始めた


「責任が問われるべきはエレの方です。それが上に立つ者の務めですから」


代わりに答えたのは未だ袖のなかで腕を組んでいるクレだった



「………なんか、敬語使った時のエレと、クレって声が同じじゃない?…て言うか名前が紛らわしいし」

「申し訳ありません」

「あ、いや、こちらこそ」


あんまりに素直に謝られるとどうも具合がよくないので、ついつられてしまい主人公のペースが乱される
そんな中木槌の音が高らかに響き査問会かお開きになったことを知らせる













「死ねくそボケが!!」




広い廷内を出てきたエレはさっそくぶちギレて手近な暗青の廊下の壁を蹴り続ける


「ちょっと、エレくんカルシウム足りなさそうだけど」

「確かにエレさん、骨がスカスカしてそうな顔ですね」

「煩せぇ!!大体テメェは何でユウユウと傍聴席に居んだよ!光の侵入者の方が大問題だろうが!!」

「この方は国賓としてお迎えすることに決まりました」

「ンなっ!?」

「え、そうなの?いつの間に」


罪人として影の宮殿内の法廷に連行されたので
きっとエレの次に尋問か何かを受ける必要があるのかと思っていた主人公だったが
いつの間にか扱いが変わっているという
と言うよりも元々罪人ですらなかったのではないかとさえ思えた



「姫のご意向です。」

「お姫様が…何でまた」


面識の無いこちらの世界の姫君に
よく分からないながらも内心感謝して、主人公はクレに案内されるまま宮殿の最上層へ向かった





















「国賓って…冗談じゃねぇぞあの女」


「迂闊に手を出せなくなりましたね、エレさん」



神妙な面持ちのまま、珍しく言い争うこと無くエレとドリューは
騎士団長の為に誂えられた執務室で顔を見合わせていた


「何にしたって、だ…まだ時機じゃねぇ…どっちにしろあの女だって帰り道は無いんだからな」


「まぁ、じくり…てとこですね」



あ、そうだ、と言ってドリューが何かを懐から取り出す
普段からテンションの低い彼女に似合わず、やたらとそれを自慢気にエレに見せつけてきたが
彼は眉間に深く皺を刻んだ




「何だ、こりゃ」



「さぁ、…割れた仮面ですね、落ちてました」


「何処に」


「アクタです」


エレは自分のこめかみで血管が切れる音を聞いた
すぐにドリューの手から何かの片割れを奪い取った


「アクタで物を拾うなボケ!!俺の面倒を増やすな!」


「だて、その模様が気に入たんですよ。それに今回の査問は全面的にエレさんの責任です」


「もういい!テメェはさっさと隊舎に帰ってろ!」


「ッチ…、ところで報告書は?」


「要らねぇよ、面倒だ!つーか今舌打ちしたか!?この俺にッ」


「はっ、失礼します」


最後だけは自棄に張り切って敬礼をするドリューが居なくなってから
エレは盛大に溜め息を吐き出した

二つの剣を乱雑に腰から取り外し
ドリューから奪ったガラクタを、むしゃくしゃしたので部屋の角に投げつける









「他に解決すべきことを全く分かってねぇ…あの老いぼれども」


形だけの執務室の、座り心地の悪い椅子に深く腰掛けて苛立ちを吐き出す
査問の回りくどさをついさっき浴びせられたことを思い出してしまい
その勢いはなかなか静まりそうになかった



「もっと俺に力があれば…」


そこらの床に投げ捨てた二刀を見れば
アクタで戦った勇者の影と
それに打ち倒された時の情景を思い出す


エレは短い髪の根元をかきむしって腹立たしさをぶり返した


















「力が欲しいのか…オマエ」










「…何だテメェ、どっから入ってきた」






部屋の隅から、不気味な声を出す子供が現れる
黒紫色の髪、緑の目、紫の服を引きずるようにして段々とエレに近づいてきた




「キヒ、ヒ…オマエ、怯えてるな」



「動くな!何者だ…『記憶』、じゃねぇな」


「アハ、何でもイイよ、オマエ…願っただろ…力が欲しいのか?」


自分の身長の半分も無いような少年に
ただならぬ空気を感じてエレはいよいよ口を閉ざす







「その欲、ボクにくれたらあげるヨ…欲しいモノ、を、さ」



「…あぁ?」










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