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意味が分からないうちに勇者の影が
見渡す限り何処にも、いなくなってしまった

持っていた黒剣も無い


あるのは主人公が浴びた血と

彼が立っていた草地に沈む銀の首輪





「勇者の影…?」











勇者の影は

消えた














《役に立たぬ、出来損ないが》







味方が、彼女の意思に関係なく消え
一人残されてしまったにも関わらず
主人公が発作的に怯え出すことはなかった

嫌悪の声でそう吐き捨てたファントムガノンに
主人公は自身の紅い眼で睨み付ける





「許さない」



《貴様に何ができると?》



「…っ」





主人公が言葉を詰まらせたのは、何もできないことを痛感していたからだ
勇者の影はいないし、ムジュラも復活する気配がない
それにとうとう武器の類いも消えてしまったし
エレは遠くの方でのびている




《貴様の命もここまで…》



「それは早まった結論です」






青い閃光が、雷鳴を轟かせて
ファントムガノンを貫いたのが
主人公の目に一瞬だけ入った
眩しさに瞼を閉じたのではっきりとそれは見えない




《グ ぬぁァぁ ぁ ―!!》


「え…!?」



ファントムガノンが苦しみを叫び
姿が漆黒にそまり霧散した

それをしでかした人物は立ち代わるようにそこにいた

装甲で顔を隠し、ぴっちり綺麗に直立し、長い袖の中で両手を体の前に噛み合わせている





「え、…え…?」



「あ、エレさんがあんなところに倒れてやがりますね」



行儀よく立つ人の後ろからひょっこりと、エレの部下ドリューが姿を見せて上司の元に向かっていく
そして顔を隠した人が主人公に近づいてきた





「お怪我は」



「だ、いじょうぶ…だけど」



「自分はクレ、と申します。影に住まう者達の数々の非礼、心から御詫びします。」


「あ、いや…こちらこそ…?」



声からして男だとわかる
不気味な模様の甲で
口元と後ろの短い髪先以外は覆われていて
前がちゃんと見えているのか心配だが
クレと名乗った彼は何も間違わずに主人公の正面に膝をつき話し掛けてきた




「此処は危険ですので、影の宮殿へとご案内します」


「それはありがたいんだけど…、仲間が、はぐれたっていうか」




影の世界に来てやっとまともに話が通じる人に会えて主人公の肩の力が抜ける
次いで、この慣れない世界で困った状況にあることを相談した
なんとも親切そうな、礼儀正しい喋り方をするクレならば
いくらか協力して二人の捜索かなんかをしてくれそうに思ったからだった







「残念ながら、貴方は行かざるをえないのです」





「……、なーんか、嫌な予感がするわ」













「陰りの侵害、及びアクタへの不法侵入の罪により、貴方を連行します」









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