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のらりくらりと、敵の攻撃を避け続け
同様に「何故戦おうとしないのか」の問いも避けてきた主人公だったが
とうとう言われてしまった

「戦え」と


勇者の影やムジュラの前では、まともに戦ったことは無かったが
城下町での水の魔物やガノンドロフ相手にそれなりに対応してはいた
いくら彼女が隠しても、実のところ主人公が弱くもないということは勇者の影に知られているのだ




「戦えっ、て言ったって…」


《逃げぬのか》


「正直逃げたいわ」



先程まで逃げる気は満々だったのだが
勇者の影の方にはもはやそんな気は無いようで既に影の青年と交戦している
別に自分だけが逃げ出してもいいようにも思ったが
それでは勇者の影が二人を相手する羽目になるだろうから
彼のためにもここは一つ頑張るしかないようだ



だが残念なことに今の彼女には武器になるものがない
頼りの光の矢は一本もなく
代わりに矢立の中にはムジュラの仮面の欠片が入っているだけ

(さっそく逃げたくなってきたわ…)


主人公は紅い目をチラリと動かして
何か使えそうな物を探すと
ファントムガノンに気づかれる前に地を蹴って駆け出した
やはり逃げ出すのかと、主人公の行動を逃走と決めつけて
黒馬を走らせるファントムガノンだったが
意外にも主人公が間も無く走ることを止めたのでまんまと翻弄されてしまった

主人公が武器として見つけ取りに行ったのは
勇者の影が地に捨てていた黒剣



「シャキーン!」

《剣か、貴様に扱えるのか》


馬を急に停止させて少し宙を滑るファントムガノンに向かって
主人公は見よう見まねで剣を構える
初めて触れた黒の剣はちょうど良い重量で手に馴染んだ



「もちろん使ったことは無い!」

《面白い》

「そんなに、面白くもないと思う、けど、…ねッ!!」

主人公は近くの木の幹を蹴る反動で高く飛び上がり
宙に浮く馬に更に跨がって高い位置にいるファントムガノンの首を目掛けて剣の切っ先を向けた

避けられるかと思いきや
騎馬は主人公の方に突っ込んできて
彼女の計っていた間合いを崩し
刃を交えるまでもなく騎馬で引き殺そうと向かってくる



「うわわっ…とー!」


主人公は咄嗟に避けながら馬の手綱を掴んだ
前に進んでいた勢い余って半円軌道を描いた体が打ち上げられ
タイミングよくファントムガノンより少し前の位置で黒馬に乗ってしまった


「ギョッ!?乗っちゃった!うわー高い眺めー」


《き、貴様ふざけるな!我がブラックファントムナイス号から直ぐに降りるのだ!!》

「ちょっ、何その名前!?私が名付け直してあげるのに」

《要らぬわ!》

「ぎゃあ!!」


間近でファントムガノンが拳を振るってきたのを避けて
更に落馬もしたくはない意地で主人公は馬の長い首の喉元にしがみついたが
それがブラックファントムナイス号の気に触れたらしく
嫌がって暴れた彼によって主人公もファントムガノンも已む無く落馬した




《ぐ、ぬっ…ブラックファントムナイス!!》


「あー…逃げてった」


暴れ馬と化したブラックファントムナイス号は暗い森の奥に消えていった
愛馬を失った上に、不様に尻餅をついてしまったファントムガノンの怒りの矛先は
当然、主人公に向かう


《貴様ぁ・・・死して償うがいい!》


「誰が死ぬか!!」


ファントムガノンは立ち上がり、手に光を集中させていく
魔王の影というだけはあって、ガノンドロフの技をしっかり持ち合わせているらしい
確かに主人公が魔王と対戦(という名の虐待)した時にしつこいくらい食らった技が繰り出される前兆だった

光弾を放たれる前に、主人公は再び黒剣を向けてファントムガノンへと突っ込む
振り下ろし、届きかけた刃は広い掌に掴まれ主人公の動きも止められる



「!!?、離し・・・―」


《貴様らの「名」は、最早我が手の中・・・》


「・・・え?」


《貴様には、極上の苦痛と、死を与えよう》



魔王と同じ顔が、黒い霧となって剥がれ落ち
現れた髑髏の顔面が嗤った






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