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「貴様の狙いは…?」

「分かってんだろ、そこの光の女だ」

「ちなみにアンタの狙いは…?」

《貴様の力だ》


エレもファントムガノンも狙う獲物は共通して主人公
単純で分かりやすいので勇者の影はありがたく思った
だが主人公を守りながら二つの敵を相手にするのは簡単ではない


「ゴッド、今ばかりは貴様も戦え」

「今更コードネーム言っても無駄だから勇者の影」

「戦え、主人公」

「……うー」












「それで、俺の相手をテメェが?勇者の影、つったか」

「何か不服か?」

「俺の名はエレ、よろしくしなくてもいいぜ」


(いや、…俺は今この男に名前を訊ねたわけでは、ない、よな)

勇者の影は一瞬怯む
それは本当に仕方ない
エレが余りにも自信たっぷりに自己紹介をするものだから
加えてこんな強引なペースで名乗られる場面を以前も目にしたからだ

認めたくはないがこの無性に苛立たせてくれるエレの態度が
主人公に似ているのだと勇者の影は気付いた


「考え事とは余裕だなぁ!」


「!!」



それなりの距離を空けていたはずのエレが
見ればもう勇者の影の目の前に、双剣の一方を振り上げてきている
勇者の影も慌てて黒剣を鞘から抜くが
その前にもろに斬撃を受け吹き飛ばされてしまった



「くっ…」


草地に転がり素早く起き上がる
幸いにも相手の剣の一撃がそれほど強くない
しかしそれなりに素早さを強みとしてきた勇者の影の目を持ってしても
エレの動きは捕らえづらいものだった

勇者の影は漸く剣を抜き
追撃に降り下ろされる二つの剣を受け止め組み合った
単純な力だけならば勇者の影に分があるようで黒剣はギリギリと擦れながらも押し勝っている
だがエレがニヤリと口を歪ませた次の瞬間に
青の双剣がバチバチと音を立てて光りだし
電流のような痛みが剣を握る手から勇者の影に伝わってきた



「グ、、貴様っ……な、にを」


痛みに耐えかねて剣を手放して後退り
見れば左手の掌に焼け焦げた傷が増えている



「影の民はな…魔力に長けた一族の末裔だ、力馬鹿はどう足掻いても勝てねぇんだよ、ボケ!!」


「……力、馬鹿…か」


未だ電撃で麻痺した左手を握ったり開いたりを繰り返している勇者の影は
敵う見込みが薄く困惑しているようにエレの目には映った

口に嘲りを浮かべ鼻で笑うのも追加しようとしたとき
『それ』は顔面に向かって飛んできた




― バ キ ッ !



「…ぅ、…っが!?」



意識が飛びそうになるのをこらえ足をふらつかせる程度でエレは留まる
しかし顔面だけに留まらず、鳩尾に拳をもう一発
それからふくらはぎに回し蹴りを入れられて堪らず倒れた



「力馬鹿で十分だ、…貴様が主人公を連れ去ったこと、俺は許したわけではない」


一時はファントムガノンに対抗するため、主人公に言われておとなしくしていたが
勇者の影は影の世界に来てさっそく主人公を守りきれず誘拐を許してしまった己への怒りも加算させて
かなりエレに怨みを持っていたようだ

開き直って剣をその辺に捨て置いて
指をポキポキ鳴らしてエレを見下ろしていた
なんだか急に雰囲気が変わった勇者の影にエレも思わず気圧された



「て、めぇ…、親父にも殴られたことねぇんだぞ、俺は!」


「…?、ならば今から俺が貴様の父親か」


「いや、意味がわかんねぇよ!!ふざけんなボケが!」






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