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主人公の影が檻の外にまで伸びて
『呼び影』によって呼び寄せられた勇者の影が姿を現した



「主人公!!」

「あ」

「あ」

「…ん?……なんだ?」


勇者の影の第一声に、思わず口をあんぐりしてしまったのは主人公とエレ
今までコードネーム『ゴッド』で通してきたのだが
切迫した勇者の影が彼女をそう呼んでしまっては
大事だと言われてきた本当の名前がばれてしまう危険性がある

しかし言うまでもなく、主人公もエレもそのことを知ったからアホ面で固まっているのだ


「馬ぁぁ鹿勇者の影ー!!」

「バっ、貴様…俺の名前がばれてしまうだろうが!」

「仕返しだ馬鹿!!そっくりそのまま台詞を返すわ!」

「テメェら、馬鹿か」

エレが脱力している時間はそう長くは与えられず
ファントムガノンはまだ厄介な攻撃を仕掛けてくる


「っく…!おい似非影!手を貸せ!!」

「貴様、主人公を連れ去っておきながら…!」

「勇者の影、その件は取り敢えずいいからそいつを倒して」

主人公に言われては取り敢えず怒りを収めるしかない
急にまた違う景色に飛ばされ、状況はよく分からないが
戦わなければ危ないようなのでそうするしかなさそうだ


「いいか似非影、奴はどういうわけか絵の中に逃げ込むんだ…出てくる直前に叩け」

「……いや」

敵が持つ複数の出入口全てを一人で注視するのは大変だが
二人となれば負担が減り、フェイントにも対処出来うるという考えのもと
エレが作戦を呈したが勇者の影は了解しなかった


「魔王の影、ファントムガノン…奴は矢で射るしかない」

「何…!?テメェ、この俺に意見するのか?」

「違う……勇者が、そうして戦っていた」


勇者の影は目を細めて鼻から空気を取り込んでいた
それは勇者の記憶を探っている動作だと主人公には分かった

主人公の檻の側に立ち尽くしていた勇者の影が突然その場に膝をつき両手を床に置いた


「おい何してる!!」

「勇者の影、まさか」




「久々の『食事』だ」




赤くぎらついた目を見開き
狂気染みた笑みを口に浮かべた勇者の影の表情を
側にいる主人公だけが見ていた



ファントムガノンが絵画から飛び出したのと時を同じくして
形成されていた広間の天井や壁の隅が黒い霧となり始めた
空間を形成する全てが散り散りに崩れて勇者の影の身体に取り込まれていく



「おぉぉー!!勇者の影やるー!」

「な、何だコイツは!!?」


景色はあっという間に色褪せた森に戻ったが
絵から間一髪抜け出していたファントムガノンは未だ馬に乗り宙に浮いている
しかしどうやら自分のホームグラウンドであった絵画の間が跡形もなく消えてしまったことに、かなり唖然としていた




「…量の割には腹が満たされなかったが」


肩やら腕やらから黒い蒸気を昇らせて立ち上がった勇者の影
久々の食事というだけあって腹が空いていたからか
結構な量の影をその身に取り込んでもまだ不満気だった




《勇者の影とは、貴様のことか…》

「だったら何だ」

「勇者の影!そんな奴いいから早く逃げよー!」


主人公が黒い檻の格子をガシャガシャ揺さぶって主張した



「な、っ何堂々と逃げようとしてやがる!!」

《逃さぬぞ!!》


勇者の影が黒剣で檻を斬るのではなく殴り潰して主人公を脱出させたところで三つ巴の図が完成した






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