「アクタてのは、行き場の無い記憶が溢れてたのを、神々が嫌がて、影の世界に棄てようと思て、だからゴミ箱です」
「貴様の口調は…、頭痛を催すな」
「さきの緑の娘も、記憶で、記憶は影に馴染みやすいから、黒子さんも危なかたんです」
ドリューの難解な話を聞き眉間にしわを寄せながら勇者の影は
サリアが消えていった地面を見ていた
問答無用で消された少女、だがドリューの話によればこのアクタの『記憶』は消滅しないし、またすぐに姿を形成してくる厄介な存在なのだとか
勇者の影にはとてもそのようには感じられなかったが
「ところでチミ、似非影ですね」
「えせ、かげ…?」
主人公を連れ去った見知らぬ男にも同じことを言われたのを勇者の影は思い出した
影に本場も紛い物もあるなどという概念が無いだけに
ただただ首を捻るしかない
「光の世界の影ですよ…深みの無い下品な灰色だからすぐ分かるです」
「貴様、殺されたいのか…」
確かに、光の世界にいた頃よりも現在の勇者の影の体はいささか明るみを帯びて灰色に見える
ドリューの姿に比べても周囲からぼんやり浮いているようだった
「殺されたいわけないし、馬鹿ですかチミ」
「こいつ…ッ」
「でも光の侵入者がチミなら、エレさんの計画もパーですね。光る人じゃないと」
ドリューがブツブツいいながら何処かへ歩き始める
彼女の探し人は「光る人」を探していて
エレという名で
性格も髪もツンツンしていて…
― 勇者の影ー、勇者の影ー!
考えるのが苦手な頭でも、勇者の影の脳内に、主人公を拉致した男の姿が浮かび、エレという人物と合致しかけた時だった
主人公の声がした
「ん…?」
「どしました?」
「…いや、…誰かに呼ばれたような」
「…もしかして、呼び影されてます?」
「呼びかけ?」
「呼びカゲ、です。離れた二人が互いを想うとき、呼びかけに応えると相手の影に喚ばれる、ロマンチク移動術です」
「互いを……」
想うとき…?
「ばっ、…ッ!!べ、別に深い意味など無い!」
「何か赤いですよ顔、黒子のくせに」
「だ、だまれ!」
― 勇者の影ー?…何なの?全然何も起こらないじゃん
色々と焦りながら、慌てて勇者の影は頭に響く声に応じた
[*前] | [次#]