AM | ナノ







「俺の名はエレだ」




ポカーン


文字通り、主人公はポカーンとしていた
大口も開けていた

黒い檻に入ったまま
尋ねてもいないのに急に名乗ってきた男のその行動が
全く分からないでいた



「…あの、さ…私この世界では、名前が大切だって聞いたんだけど」

「おぅ、よく知ってんな!だから名乗りあう時なんてのは偽名やら愛称やらであることが常識だぜ」

何故そんなに簡単に名を名乗るのかと思えば
あぁ、確かに
少し考えれば解りそうな簡単な理由だった
いつもの主人公ならばわざわざ質問などしていなかっただろうが
ついさっき拉致されて
またよく分からない景色の中に檻ごと下ろされて
それも見ず知らずの男に
急に自信たっぷりの顔で自己紹介を始められれば
誰だって混乱するだろう


しかし状況を整理しようにも
何から解決していけばいいものか
目まぐるしく変わる状況にとりあえず主人公は溜め息を一つ



「しっかし光の民ってのは…文字通り光ってんだなぁ、オイ」

「…と言うと…あんたは影の世界の人なのね」

「触っても溶けないよな…まったく、目に悪いぜ」



格子越しに主人公の腕の辺りをチョンチョンと触り
こちらの話など耳に入れないマイペースぶりに主人公はうんざりした


(ていうか、なんか…こんなふてぶてしい性格の奴、前にもいたような…?)



「そういやぁドリューの野郎、何処に行きやがったんだ」


エレは立ち上がり腕組をして辺りをキョロキョロした
二人は未だ褪せ森から抜け出しておらず
ただ近くにはなにか神殿の入り口らしいものが見えている

主人公にとってはどう景色が変わっても知らない場所に変わりはないが
影の世界の住人であるはずのエレもあまり慣れない場所らしい

その証拠に小さな舌打ちが聞こえ
主人公の前に再びエレが座り直した





「記憶の、ごみ溜め…って」


「あ?」


「結局どういうことなの?」



エレが最初に言った事を思い出す
アクタという場所を一言でそう説明していた






「…何も知らねぇで、全て平和と思って生きてきたんだろうなぁ、光の民はよ」


やっとまともな会話を交わせると期待した主人公だったが

腰を下ろし胡座をかいたままのエレは腰にさがる双剣をゆるり鞘から抜き
檻の格子の間から主人公の首に両側から刃を突き立てた




「殺したくなんだろうが」













「…でも、殺せない、そうなんでしょ?」




主人公は臆せずに微笑して見せた

出会った時点で殺さずにわざわざ連れ去ってきたということは
主人公が死ぬことによる何らかの不利益を恐れているから、そう考えての余裕だった


それを見るエレは
頭に血が昇るかと思いきや
単純馬鹿でもなかったようで
主人公の態度に感心していた




「テメェー…人の上に立つ器だな」


「そりゃどーも」




「アクタは…光の世界から零れた記憶、過去、思い出、霊魂、何でもいいがそんなヤツラがゴミ箱のようにごちゃ混ぜに投げ込まれてんだ」



突然、さらさらと主人公の質問に答え始めたエレが
すぐ側の草をムシって見せる


「この空間を形成する全てはその『記憶』だ、幻影みたいなもんだと考えてもいいがな、コイツラはこっちの心理に関係なく姿形を作り出す」



確かに幻影なら自分の真相心理の傷を抉るような幻を見せるものだが
ここの「記憶」とやらは全く知らないものばかり見せている





「まぁ一見、害のないもんに見えるかも知れねぇがな…最近アクタの領域が段々広がってきてる」


「…というと?」




「この世界の全てがゴミどもに蝕まれんだよ!そう遠くない未来になッ!!」




荒く吐き出された声が遠くまで響いた
急に感情が昂ったのではないだろうと主人公は感じた
恐らくアクタの話を進める間ずっと、その怒りを止めていたに違いない




「だから…光の世界が嫌いなの?」



― 殺したくなる

エレの紫瞳に宿る激情は確かに光を憎んでいた
影を蝕むというアクタを、アクタに淀む記憶を、記憶の出所である光の世界を
彼は心底嫌っているのだと分かる




「あぁ、だがな…テメェーが現れた、恐ろしくいいタイミングで」


「?…わ、私?」



「利用させてもらうぜ、テメェーの『光』」









[*前] | [次#]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -