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真っ暗
というよりも、真っ黒?

ああ、多分これ目を閉じてるんだろうな





「………目を開けても、黒」



主人公は半開きだった瞼を改めてカッ、と目を見開いた

だが主人公の視界は黒


再び目を閉じて自分の手足をぴくりと微かに動かしてみると
確かに自由に動く四肢は俯せの状態で地に着いているのがわかった





「ここ…」


慎重にゆっくりした動きで膝をつき立ち上がると
黒い視界の中にも明暗の別れで景色が浮かび上がってきた
ボンヤリと輪郭のはっきりしない影に囲まれているようだった




「影の世界!…かな?」


主人公の声は辺りに響き何処からか同じ台詞が反射してきて暫く静寂を打ち破った
無意識に踏み出した左足の下からカサッと短く乾いた音
それから柔らかく足を押し返す草の弾力がした

下を見れば彼女の足は、全身は、周囲よりも光を帯びていて
地に着いた靴の辺りはほんのり照されて暗黄色の草地の存在が露になった





「勇者の影何処ー?」


反響した声に反応を示す音が主人公の背後からした
草を踏み分けてくる足音だった



「お、勇者の影」


「…あぁ、……これが影の世界か?」


黒い霞の向こうから現れた勇者の影は普段よりも小さい声で周囲に気を配っている
しかしその些細な声さえも辺りに響いていく



「分かんない、けどそんな感じ…暗くて何も見えないし」


主人公が色んな方向に顔を向けていると
温い風が流れてきて木々のざわめきが聞き取れた

どうやら周囲には林か森かが存在しているらしい
そう認識した途端
二人の視界の背景に色褪せた森がじわじわと姿を現した





「森か、なかなか人に出会えそうにない場所だわ」


「面倒だな…、しかし主人公…ムジュラはどうした」


「え?えーと…、多分何処かに落ちてると… ―




ベキ




「「あ」」




主人公の足が何かを踏みつけた
勇者の影にとっては少し覚えのある音と状況だった


恐る恐る主人公が足を持ち上げる
その下には更に分割された仮面の欠片が黄草の地にめり込んでいた




「ギャァァ!ムジュラがぁぁー!!!」


「これは死んだな」


「縁起でもないわッ!!」


主人公は一先ず勇者の影の顔に鉄拳を食らわして
直ぐにその場に屈み込み仮面の欠片を素早く丁寧に広い集めた
しかもよくよく見れば最初勇者の影によって二つに割られたうちの片方の分しかそこにはなく
辺りを慎重に探っても残りの半分は見当たらない



「やばい、なくした!?」

「それより今の俺への鉄拳は必要だったのか?」


「ま、まぁ…半分でもいいか、あのムジュラだし」



地に伏せて話を流された勇者の影は必要以上に痛む頬を庇いながら
よくはないだろう、と声に出すのに苦労していた
主人公はやはりその声を聞かないことにして
慎重に、空になっていた彼女の矢立に中々細かくなってしまった仮面の欠片を流し込んだ





「ねぇ勇者の影…ここが影の世界なら、リンクが来た場所なら、やっぱり『記憶』の匂いってやつを辿れたりするの?」


「…その筈なんだがな、」


勇者の影は起き上がり

未だ流れる微風を追いながら
鼻に空気を通して目を閉じた
主人公も何となく勇者の影の動作を真似て匂いの片鱗でも掴もうと鼻をスンスンさせた

周囲に森があるというのに
流れてくる空気は濁り生暖かいもので主人公は不快な顔をした





「…妙だな」


「どーしたの?」


「刻々と匂いが変質して辿れない」


「そっか…やっぱりここはハイラルと根本的に色々違ってると思った方が良いかもね」


「うん、ここは影の世界の中でも異質だから…影のみんなも近寄れないの」


「へー、そうなんだ!何気に物知りだね勇者の影」


「…待て、何だ今のは」



勇者の影と主人公は紅い目を同じタイミングで見合わせた
たった今交わされた二人の会話に何かが、否、誰かが紛れ込んだことに数秒遅れて気づいたようだ

勇者の影と主人公は同時に背後に振り返った





二人の後ろにちょこんと立っていたのは少女

見事に揃った動きで二人に凝視までされた少女だが
一度きょとんとして見せただけで物怖じもせずに微笑みを返した




「あー、…勇者の影、知り合い?」


主人公は少女にひきつった笑みを向けながら声を潜めて問う
だが声は構わず辺りに響いた

主人公も勇者の影も共に、影の世界は初めて来た場所である
当然この世界に知り合いなど居るはずもなく、主人公の言葉はふざけているだけに過ぎないもの、だったが

少女に顔を向けたまま視線だけを主人公に投げる勇者の影には
肯定とも取れないこともない様子が見てとれた






「森の賢者だ、あの時の」








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