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「驚きだな」




「…な、……に」




「貴様の脆弱にだ」




魔王が鼻で笑うと同時に
主人公の身体が前に崩れていった

乾いた砂が薄く積もっている舞台は生身の肌を容赦無く擦り剥いた
だがそれ以前にガノンドロフからの傷が主人公の痛覚を占めている


主人公は力の入らない身体を横たえ
荒い呼吸をするのに残りの力を消費するだけになった


しかしそれすらも許さないというように主人公の頭髪が掴み上げられた




「神ならば、何故力を使わずに這いつくばっている」


「私は…神じゃ、ない、っつ、ってんだよ」



ガノンドロフは容赦無く主人公の腹を殴り付けた

主人公の身体は仰向けに吹っ飛び
背に受けた衝撃もプラスされて激しく咳き込んだ
口の中に鉄くさい味がして吐き気もした




(子供産めなくなったらどーすんだハゲッ、…産む予定無いけど)



痛みを訴えもがくよりもそんな思考を延々と連ねて微かに頭を動かす

頭の後ろが床に擦れて痛みと耳障りな音を生じ
そんな苦労の果てにどうにか目で確認できた自分の身体部分は
痛々しく投げだされた右腕

未だその腕が自身の肩と、胴体と繋がっていることは分かったのだが
主人公の右の手はただのソーセージのように動かない肉塊にしか思えなかった




「私は…神を、信じない」


「ほう?」



「私は…せ…界で、一番、…かみさまを、きらってる人間だ、から」



主人公はどうにか死力を振り絞って寝返りをうち
俯せの状態まで持ち込んだが手をついて立ち上がるのはどうしても厳しかった




「神なわけ、ない、じゃん」



「貴様の好悪など聞いていない」



根性で動かしていた主人公の左腕は無情にも重いブーツに踏まれる

両腕は数多の擦り傷から滲み出た血と
強い力で掴まれ固い靴の裏で押し潰され残った跡によって赤く染め上げられた



だが主人公はずっと目を開いていた

意識をなくすことを自身に許さなかった




「てゆーか…、私…殺すつもり、あんの…?」



主人公は溜め息を吐き出すように、しかし咳き込みながら言う
魔王は先程からネチネチネチネチと苦痛を与えてはいるがこんなものでは死にたくても死ねないというものだ
殺さないでいてくれることはありがたいことだが主人公はこの不毛な拷問擬いの暴行から早く解放されたかった




「貴様のトライフォースだけでは足りん、だからこそ…聖地の場所を聞いているのだ」



「…しつ、こ…ぃ、ハゲ」




主人公の息が細くなり

それでもガノンドロフを見上げ睨む瞳の色は褪せない

ただこの男は

彼女の心を折る術を知っていた






「やはり貴様は此処で死んでおくか…?」



ガノンドロフは主人公の細い首を片手で持ち上げ
その身体を舞台の縁に突き出し掲げた

手を離せば呆気なく
何の抵抗もなく主人公の身体はホールの底に落ちていくだけ

結末はただ一つしか予想できない最悪の未来




「女神どもは貴様を見捨てたようだ、この惨めさに何の助けもよこさんとは」




「……」




「人知れず砂に埋もれ独り、暗闇に亡骸を隠し朽ちていくのが…貴様には相応しいようだ」




(ひとり…)




首から下が支えを失ったまま
呼吸が苦しくなり主人公は目を細くした

魔王は彼女の体から徐々に力が抜けるのを見て喉の奥で嘲った



「貴様は所詮最期まで、独りなのだ」



ガノンドロフがやたらと一つの言葉を強調するたびに
主人公の頭は鈍く白けていく


主人公の目蓋がとうとう下ろされる刹那



ぼんやりと思い浮かんだのは


空色の眼の青年がこちらに振り向く映像

それは彼女の記憶などではなく
心奥深くに染み入っていた幻想








主人公の両手が

首を掴む大きな右手に添えられた

無意識に、それは誰かの意志であるかのように動き
主人公自身も驚きたいところだったが目を見開く気力は無い




「ぐ、ッ――!!?…貴様っ、何を…!」



急に苦悶する煩い声も遠く聞こえた

目が潰れてしまう程の輝きが周囲に溢れ
強い電流が流れたように全身が痺れる
手の甲に浮かぶ聖三角の紋章が熱を持ち火花を散らした



「そんな、の、知ってる…二人を、置いてきて…私が、ひとりに……なったんだ、から」


「ぐ、ぅ、…があぁっ!!」


主人公に触れている箇所から広がる腕のもぎ取られるような痛みに
ガノンドロフは耐え切れず手を離した




「ぇ、…―!?」




主人公の体はそのまま宙に投げ出された

何故急に体が解放されたのか分からずに
自身が落下しているのを知った時にはもうガノンドロフの姿も見えない程高度を下げていた







死ぬのか 私

何ていうか寂しい人生だった、としか言えないな

いろんな人に出会いはしたけど

ねぇ、 やっぱり



 私は

 昔からずっと 独りだったんだ なぁ












(…むかし?)





























地面に落ちる直前の彼女を



掠う黒い影があった





主人公と砂上の間に入り込み
砂煙を舞い上げてほとんど転倒しながら現われた黒は
目を見開いて現状の理解に撤した




「な、…こんな、入って早々、人間が落ちてくるとは」



重々しい石の扉が閉じられる音が今頃響く


勇者の影は柄にもなくひどく混乱して言葉も追い付かないほどだった

主人公の危機を知りエイミーに案内され急いでこの広間への扉を開けたはいいものの
彼の良すぎる動態視力が何か物体の落下に気付いてしまい
頭が理解するより先にそれを受けとめてしまったので未だに何が起こっているのか分からないようであった

しかもよくよく見れば自分の探し人がすっぽり腕の中に収まっている




勇者の影は直ぐに上に広いその空間を見上げた

遥か高い舞台上からこちらを憎々しげに見下ろす男が小さく確認できる



「ガノンドロフ…!」





同じ紅い目を持つ彼らが遠く
視線を一致させたのはほんの数秒


ガノンドロフは熱の引かない右手を庇うように身を翻し

広間の出口をくぐっていった








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