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「ハァァァ――っ!!!」



闇の弾丸がいくつも主人公の横を擦りいく
彼女の金髪が追い掛けるように後ろに流れた



「っひぃぃ!!」


なんとか直撃を避けるものの
顔の横を過ぎる魔力の塊の圧力がヒリヒリと肌に痛みを送る

魔王の攻撃を大きくかわしたつもりが
避けた先にも魔弾を打ち込まれてはあまり派手な動きは見せられず

主人公は最初とほぼ変わらない立ち位置でむちゃくちゃな体の動きを続けた




「う、っ、疲れ、たんですけど!!」



「ではそろそろ喋る気になったか?」



「知らないッ、―てば!!」



主人公は足元を狙って飛んできた弾を小さく跳び避け
着地と同時にガノンドロフの元へと駆けた

不意を突かれたかに見えたガノンドロフだが
瞬時に彼の両手から放たれた光弾が的確に主人公の体へと飛んでいく



「私を傷物にする気かあんたぁ!!」


主人公はあらかじめ外れそうになっていた矢立てのベルトを取り去り
空になっているそれの口を真っ向から光弾にぶつけた
光の矢を収める代物だけあってか
弾の魔力は矢立てに吸収され
初の試みと衝撃の為に底の方から白い煙が出た



「面白い見せ物だな」


「いやいや結構 ―っ」



主人公は荒い床をスライディングし砂埃をまき上げながら
ガノンドロフの両足の間を潜り背後に回る



「っ、綱渡り、だったわ!!」


「うグァ!!?」


すぐに反応し振り向いた魔王の顔面に
財布から引っ掴んだ細かい緑ルピー達を全力投球して主人公は立ち上がった

鋭くカットされたライトグリーンの結晶は地味に痛い、どころか普通に凶器になりえた




「こっ、の…小娘があぁぁ!!」



「ヒョイ!っとぉ」



禍々しい魔力を込めた剛腕が振り下ろされるも怒りに任せただけの攻撃はあたらず

主人公は軽やかに魔王の高い頭の上を飛び越える
その際に彼のマントの上部を両手に掴み
重力は主人公と一緒にガノンドロフをも床に引き寄せた



「ぐっ、!!」



「はぁっ、はぁ、…一つ、二つくらい、聞きたいんだけど」



主人公は床に倒れたガノンドロフの太い首を素早くブーツのかかとで踏み付けた

人の首を踏むなんてことは彼女にとって人生初めての体験だったわけであり
できることならば経験しておきたくないものの部類に入るがしかし
この巨漢を押さえ付けるには主人公のか細い腕では役不足であり
かといって足を使っての技など教わったこともないので
手っ取り早く固い喉仏を圧迫しにかかったのだ





「私の、トライフォースって…何なの」



肩を上下させ薄く汗を流す主人公を見上げる
ガノンドロフの赤い目が見開かれた






「何で、私を…神って呼ぶの?本気で、言ってんの?」





「…フ、…は、っはッハハハ―!!!」




ガノンドロフはひとしきり笑うと自身の首を押さえるブーツの足首を掴み無理矢理に起き上がった
早くも抜け出され足を掴まれてしまった主人公はバランスを崩し
当然のように襟首に伸びてきた男の手によって身体が浮き上がった



「持ち腐れだな、やはりその力は…我が物であるべきなのだ」



「う、くっ…ちょ、意味が、分からないっつーの!!」


床から離れた足をばたつかせてもビクともせず
そろそろ自身に誤魔化していた体力の限界も見えてきて
主人公は息を荒げるだけになる

ガノンドロフはニヤリと口を歪ませた








「貴様のこの手は、神々を、トライフォースを、生み出したのだ」



「…いっ!?」



主人公の右手首はギリギリと握り潰さんという勢いで締め付けられた
彼女の首元を掴む魔王の右手の甲とそれが呼応するように光を見せた



ガノンドロフは目を細めてその光を睨むと
主人公の身体を再び
今度は円舞台の端まで投げ捨てた




「うぁっ、…と…!!」



そろそろ身体ごと投げられることに慣れてしまったのか
主人公は疲れ果てながらもしっかりと着地を成功し
少しふらつく足で際に立った





「ふん、もう先程のような小細工は効かんぞ」


「…うるさいわ、おっさん」


軽口を叩いて微笑を零すが
もはや主人公の身に有効な武器はほとんど残っていなかった
広いが、しかし生きた心地がしないその場所は閉塞感が立ちこめている




「未だ勝機が有るとでも思っているのか?…確か貴様にも手下が居たようだが…」


そんな心中を知ってか知らずか
ガノンドロフは腕を肩ほどに上げ人差し指を向けた







「助けなど期待しないことだな…誰一人、来ることはない」







指し示す方向には主人公一人
魔王の赤い眼には主人公#だけが映る


確かに他には誰も居ないのだ









(ひ と り …)






主人公の瞳が揺れるのを

ガノンドロフは見逃さなかった









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