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ズ ゥ  ン ‥ …




重い石の扉が閉じられる音が片隅に鳴った

処刑場内で最も広い場所にあたるそのホールに入ってきた男は
中央の巨大な円舞台の上へ上るべく
空中に階段の一段を登るように足を載せると
続いてどんどんと空中を進んでいった



高い円台上に登り切る頃には
男の腕の中に眠る人物が小さく身じろぎをするようになった


「ぅ…、ん…」



「漸く気が付いたか…?」


男が呼びかけるも腕のなかの女は苦しそうに目蓋を強く閉じるばかりだった

男はただ抱きかかえるだけだったのを改め
大きく分厚い手で彼女の背にある矢立てを掴みあげた

矢立てに繋がるベルトだけに支えられ宙にぶらりと垂れ下がる女の体を男は放り投げた

綺麗な放物線を描き光る矢がばらまかれ
力無く肉が床地に叩きつけられる鈍い音がすると
女はさすがに痛みを訴えるために目覚めた




「いっっ、たぁ…、せ、…背中…三回目だっ、て」



その広い舞台の端から真ん中まで無抵抗に投げられた彼女は当然身体を強打した
しかしその個所は偶然にも彼女が
主人公が前日に痛めていた背中だった


涙ながらに起き上がり見た目の前の景色には
主人公が会いたくなくてたまらない男の姿があった


「おっさん!?」


「おっさんではないわ!!」


「間違えた、ガノンドロフ!!何であんたが此処に」


後ろに退こうとすればザッ、と足が荒い床を滑る音がした
なぜ此処に、と言いつつも周囲には自分が気を失った石室とは違う広い空間があり
主人公はキョロキョロと辺りをうかがった

そして再度
彼女の目の前の男、ガノンドロフに視線を送った






「もちろんだが、貴様のトライフォースを奪うためだ」


「うわ、しつこい…明日にでもハゲるよ」


「ほざいてろ、小娘が」

「ちょっと肝臓悪いんじゃないその顔色、もしくは皮膚癌?ハゲても地肌はやっぱり黒いの?手の平くらいはまだ肌色だよね?」


「……やっぱり黙れ」


ガノンドロフは最初の勢いを失って些かげっそりして見える

主人公は喋りながらも目の前の男から逃げ出す道を探した

円形の大広間の中央に壁からすっかり切り取られたように聳える高い舞台
そこから一本だけの道橋が壁に伸びて出口の役割を果たしている扉へと渡している

しかしその唯一の道もガノンドロフの背後だった



「万に一つでも私がトライフォースを持ってるとして…なんでこんな所まで無傷で運んでくれたのかしらねー」



「貴様から聞かなければならないことがあるからだ」


その場から動こうとしない魔王からしっかりと目を離さず
主人公は確実に逃げられる距離を置いていた

しかしどうしても主人公の劣勢は変わりそうになかった
足を付けている場所はできれば絶対に落ちたくない高さにあり
何故だか唯一の武器となる光の矢は矢立てを空にして散らかっていた

それ故に主人公は可能な限り会話を長く長く続ける努力をした



「あんたに教えられるほど有益な情報は持ってないけど?むしろ情報無さ過ぎて困ってるってのに…」



「貴様なら知っているはずだがな、…聖地への道は何処だ」



「…聖地?」




久しく耳にしていないその言葉に口を止めてしまうしかなかった
主人公はすぐに、知らない、と返すつもりが頭を働かせることを優先させてしまった

膨張し途方も無くぼやけていた謎の手がかりとして
大きく欠けていたピースが今ぴたり、と埋められたような感じがした



「神々が最初に降り立った地として、これを聖地と定める…聖地とはハイラル、神々の加護の下に生きる命の国、…っていうの知ってる?王家の歴史書にあるんだけど」



「著者は、何処のどいつだ」


「グィルダ=グライセ、六十四年前のハイラル王家お墨付き歴史研究家、神話や伝記の見直しを多く行った年の一冊だって」


「ふん、大した記憶力だ」


「あ、ども」


「誉めてなどないわ!そんな馬鹿げた作り話なぞに意味はない、…聖地とは、トライフォースを収めるための地、神々の地だ」


「え、それ何処の文献?」


「知るか」



「大した記憶力だよ…」



主人公がやれやれと両手を持ち上げて言えば
ガノンドロフは大きく一歩踏み出し光の矢を踏み付けた
黄金色はジリジリと闇色に焦げていった
主人公はハッと息を飲み込んで一歩後退した



「全くもってどうでもいい、貴様に聞いているのだ…『聖地』は何処か、と」



主人公はこの会話を終わらせる原因となった一つ前の自分の台詞に後悔した

一応ながら、知らない、とは言ってみたが
なかなか冷静さを欠いた魔王ガノンドロフには今更通用しない言い分だった





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