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ヒトリだった



そこが「何処」であるのか

自身が「何者」であるのか


そんなことにすら、答えが無かった
意味が与えられていなかったからだ



ただ彼女は知っていた


一人、だと

独りだ、と




「嫌なの」


そっ、と
陶器をガラスのテーブルに置くように声がした


「独りは嫌、暗いし、静かすぎる」



二人がいい、三人がいい


声が要る、身体が要る、言葉が要る


四人と、遊びたい
五人で笑いたい


テーブルがあればいい、それに明かりが欲しい




世界を、空間を、時間を、

つくらなきゃならない

























「鬼さん、遊ぼう」


「今忙しい」


えぇー、と非難の声を投げ付けた彼女を見下ろして
『鬼さん』は声と息を一緒に吐き出した



「誰が原因だと思っている」

「え、私のせい?」


とぼけているのか、本当に分かっていないのか
どちらにせよ質が悪い、と『鬼さん』は苛立ちを覚えて彼女の頭を、その大きく、角張った手で鷲掴みにした


「御前が、道を開いたおかげだ、余りに、大き過ぎる、誰もが、通り易い、道をな」


はっきりと文節を区切って話すのは
彼女の長耳に全ての言葉詰め込むためだった



「あ、はは!ま、まずかったかなぁ、そんなに」


「生臭い生者どもが無遠慮に此の地に踏み入ってくるのでな、此のまま住み着くような者もでてきては『まずい』以外に何がある」


「え、いーじゃん…賑やかなほうが好きだし、全然まずくないっしょ」



「…御前は知っているとは思うがな、…私は心が狭い、我慢を知らないのだ」


頭を掴まれたままの彼女に、『鬼さん』の顔が近付き囁く

銀白の、長い前髪が、『鬼さん』の紅い片目だけを覗かせる
その鋭さと、気迫のある声に彼女は思わず喉を鳴らした
『鬼さん』の性格は彼女自身がよく分かっていた



「私がだ、我慢できずに、鼻に付く生者どもを『消して』しまうかもしれない…奴らの数が減っていく景色など御前は、見たくもあるまい」


彼女は頭を固定されていたにも関わらず
ブンブンと力一杯頭を上下させた

恐ろしい圧力のため微かに涙さえ浮かべていたが、どうやら自分の言い分を納得したらしいことに『鬼さん』は満足して手を離した



「じゃー…、道閉じちゃうんだ」


「今、私が断ちに行くのだ」


「あー、だから忙しいんだね」


彼女はうなだれて言葉を消した
もはや動かない結末なのだろう、と思えば尚のこと
彼女は気を落とすしかなかった


『鬼さん』は再び吐息を落とし
彼女の頭に手を、先程とは違い優しく、乗せた
それは少し不器用に荒さの残るものだった




「奴らなぞ必要ない…御前はもう、独りではないのだろう」



『鬼さん』は慣れない慰めの言葉を絞りだし
ポンポン、と彼女の頭を叩く
自分がいるのだから、とでも言い聞かせるようだった


「うん」





 それでも


 どうしても 誰も独りになってしまう








『鬼さん』は上の方に視線を泳がせた
やはり自分は彼女には適わないのだと再確認する







「まったく、御前は手が掛かる」



「…」


「仕方がない…遊んでやる」


「…じゃー、鬼ごっこで!」


ぱぁ、と表情を明るくする彼女に『鬼さん』も柔らかい微笑を返す

そして次の瞬間に恐ろしい力で圧迫される首


「ぇ、ぅ、…え゙!?」


「そうだな、御前は何処までも逃げ続けるがいい…決して私に捕まるなよ」


「はっ…い…ぇ、ちょ、首、がッ」


「例え足が折れたとしても、逃げることを止めるな、私も御前が歩みを止めるまで捕まえはしない…ただし其の為のあらゆる荒い手は使うとしよう」


「ひっ、ぐ…あ゙、の首っ…絞ま、て」



フッと『鬼さん』が手の力を緩めると彼女の体はドサリと落ちた
尻餅をついたままフーフーと呼吸を荒くして『鬼さん』を見上げる彼女にはもう先程の明るさはない




「開始は十秒後だ、私に捕まるような事があれば其の時は…そうだな、御前の両眼を貰おうか」



「ちょ、ま、待って鬼さん」


「十、九、八…」


「わっ、待ってよ鬼神、鬼神さん」


「七、六、五」

「数えるの速いから!ちょ、マジ勘弁してくださいよ鬼神さま――っ!!」








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